第6章 ・闇魂
精神世界に入り、魂に近付くシトリーを気に止める気配もなかった。
完全に集中している様である。
「よし、では……やるか」
シトリーの体が、一瞬光り輝く。
その光が消えると同時に、その場にいた筈のシトリーの姿はなく、代わりに美しい女がそこにいた。
透き通った白い肌が美しい、見るからに清楚で上品な乙女である。
白いシルクのドレスを身に纏った彼女は、並の男であれば一目で心を奪われるであろう、非常に美しい女性であった。
彼女は、ゆっくりとゾロに近付くと、その傍に腰を下ろした。
「……お兄さん、本当にいい男ね……私と、色々楽しまない……?」
女はゾロの耳元で、そう囁いた。
だが、当のゾロは聞いているのか、それとも聞こえていないのか、全く反応を示さない。
女は、ゾロの体に触れようと、彼の肩口に手を伸ばす。
彼女の手が、ゾロのオーラに入り込み、その肩に触れる直前。
黒紫色のオーラが不気味に光り、衝撃波が発生した。
女の体は、あっと言う間に数メートル後方にふっ飛ばされてしまった。
「いっ……つつつ……」
衝撃波をまともに受けた女は、痛みを堪えつつ起き上がる。
だが、女の姿は消え、代わりにシトリーがそこに現れた。
(……ロロノア・ゾロ……真の姿に覚醒したばかりだと言うのに、何と恐ろしい魔力の持ち主だ……)
女の正体は、シトリーであった。
彼は恋愛に関する願いを叶え、美しい女性の姿に変身出来る能力を持つ魔神なのである。
シトリーは、ゾロの好みの女に変身する為、彼の魂の中を覗き見ようと試みる。
が、しかし。
彼の魂の中は、何もない状態であった。
何もない、と言うより、真っ暗闇で何も見えないのだ。
その時、彼の魂の中心を凝視し続けるシトリーは、突然、彼の魂に吸い寄せられ始めた。
恐怖を通り越し、徐々に意識が薄れて行く。
同時に、ゾロの魂から異常な寒さと熱さを感じ取ったシトリーは、はっと我に返ると、何とかその場に踏み止まった。
(あ……危ない危ない……我が存在を消される所であった……)
シトリーが心の中で、独り言を呟いたその直後。
先程のものよりも更に凄まじい衝撃波が、シトリーに襲い掛かった。
その衝撃波と共に、巨大な蛇の様な、龍の様な黒い影が勢い良く飛んで来たのを、シトリーははっきりと目にした。