第5章 ・魔王顕現
だが、ルシファーは、相変わらず落ち着いた口調で彼に言う。
「オセよ、これがゾロのデメリットだ。この姿になったゾロは、満足する迄戦い続け、満足する迄、殺戮と血を求めるのさ」
狂気に満ちたゾロの姿がモニターに映っている。
オセは固唾を飲み、冷静に語る大魔王に、小声で恐る恐る訊ねた。
「……閣下とはまた違う……冷静さを失った魔王……かつての死皇帝と戦闘時の状態は全く同じ……いや、それ以上か……閣下、この状態になった奴を止める事は、出来ないのですか?」
「……止める方法と言うか……ゾロを止められる『存在』がいる。僕の他にも、ね」
「か、閣下の他に……ま、まさか……」
「そう……これからゾロは、その者と出会う事になる。万一彼が暴走した時、その者が彼を止める存在になる……僕が彼の世界に行かなくてもね……勿論、彼が拒否しなければ、の話だが」
その時、バーチャルルームに怒号が響き渡った。
「おい!!!ルシファー!!!聞こえてんだろ……もっと寄越せよ!!!足りねえんだよ……血を寄越せ!!!もっと寄越しやがれ!!!」
ゾロの声が余りにも大きい為、スピーカーが音割れしてしまっている。
モニターには、相変わらず狂った様に床を斬り刻み、叫び声を上げるゾロの姿が映し出されている。
ルシファーは苦笑いを浮かべつつ、暴れ回る魔王に話し掛けた。
「判った判った。今新しい敵を出すから、くれぐれもバーチャルルームは壊さないでくれよ」
ルシファーの声が、ゾロの耳に届く。
すると不思議な事に、彼は途端に大人しくなって、床への攻撃を止めた。
まるで猛獣使いに従う猛獣の様である。
しかし、その目は相変わらず殺気に満ち、明らかに苛付いていた。
(……あの野郎……何時迄おれを待たせやがる……)
ゾロの背中が、呼吸をする度に揺れ動く。
彼は何時も冷静沈着で、自分の感情や欲望をも抑えコントロールし、滅多に感情に流される事のない男である。
しかし、目の前にいる彼は、それとは真逆の状態であった。
長年、日常より押さえられて来た激しい怒りや残虐性が、真の姿となった事で一気に解放され、爆発した姿。
嘗て、イーストブルーで『野獣』そして『魔獣』と呼ばれた男は、この時、本物の野獣……いや、それ以上に恐ろしい存在になったのである。