第5章 ・魔王顕現
「お、おお……あれは……!!」
オセの視線の先に、仁王立ちをした男の姿があった。
人間の姿は保ったまま。
その左腕は武装色の覇気を纏った時の様に肘の辺り迄、そしてその右半身……右腕から背中、首筋、胸、そして顔は右目の周りから顎に掛けて、黒紫色に染まっていた。
黒紫色に変色したその肌は、結晶化してキラキラと輝き、変異していない肌との境目は、燃え上がる黒い炎か、得体の知れない生物の触手の様に枝分かれしている。
彼の右目は鈍い銀色の光をっており、その瞳孔は完全に開いてしまっていた。
一体何処を見ているのか、視点は定まっていない様である。
先日のレギオンとの戦いで見せた姿よりも、はっきりとした変異。
この悍ましい姿こそ、魔王……ロロノア・ゾロの、真の姿であった。
狂気に満ちたその瞳には、オセの姿がはっきりと映っている。
ゾロは、オセと視線が合うと、白い歯を見せて、ニヤリと笑った。
その銀色に鈍く輝く右の瞳は、完全に正気を失っている。
彼の体全体を包み込む様に、不気味な黒紫色のオーラが、ゆらゆらと漂っていた。
オセの背筋に、悪寒が走る。
ゾロの呼吸が、荒い。
明らかに、先程迄のゾロではない。
何時斬り掛かって来ても、おかしくない状況であった。
それでもオセは冷静さを保ち、ゾロと対峙する。
その時彼の背後から、オセに話し掛ける者が現れた。
「……ふむ……肩で息をしている……かなりの興奮状態、極限状態に入っている様だね」
「お、おお……閣下……来ておられましたか」
一瞬緊張の糸が切れ、振り返ったオセの目に飛び込んで来たのは、大魔王ルシファーの姿であった。
何時もの様に少年の姿をしたルシファーは、お気に入りの帽子を被り直すと、変異したゾロに視線を移し、彼の様子を伺った。
「散歩の途中でね。ついでと言っては何だが……見に来たんだ。そうか、やはり、あの方法で変異させたんだね」
「はっ……閣下のご判断通り、覇気と魔力のバランスを取るには、まだまだ時間が掛かるかと……そこで閣下が仰られた手段で、変異させた次第であります」
ルシファーは、頭を下げつつ報告するオセに近付くと、その肩をポン、と一つ叩いて労った。
そして、仁王立ちする彼の力を見定める。