第5章 ・魔王顕現
ゾロは無言で頷くと、両手に持っていた刀を一旦鞘に収める。
目を閉じ、何度か深呼吸して呼吸を整え、心を静めて行った。
(まずは……覇気と魔力を一気に解放する……)
彼は、レギオンと戦った時と同じ様に、魔力と覇気を、同時に一気に解放する。
あの時と同じ様に凄まじい衝撃波が起こると、彼の体は変異して行った。
赤と黒、金と銀のオーラで包まれた彼の体は、一瞬、輝きを放つ。
彼がゆっくりと目を開けると、その瞳は、金色に変わっていた。
ゾロは、ふうっ、と一つ息を吐き、また呼吸を整える。
自分自身の心音に集中し、一切の思考を消して行く。
風の音が、肌に触れる砂の感覚が、徐々徐々に、消えて行く。
彼の中から全てが消えた時、心の奥底、魂の奥底から漆黒の何かが湧き上がり、体中を駆け巡って行った。
それは彼の中にある、闇の力であった。
漆黒の魔力が、急激に覇気を取り込む度に、血管を駆け巡る血が煮え滾り、体中の細胞がざわざわと騒ぎ始める。
ゾロは、今迄感じた事のない酷い苦痛と怒り、寒気と熱に襲われ、思わず叫び声を上げそうになった。
体の奥底、魂の奥底から次々に湧き上がる闇が、心と体に襲い掛かって行く。
ゾロの体内にまだ残っている人間の細胞が、闇を拒み、激しい痛みが生まれる。
急激に変異する過程で起こる、拒否反応である。
だが、彼は耐えに耐えた。
(おれは魔王になるんだ……こんな痛みに……負けてられねえんだよ……!!!)
その時、ゾロの体から黒紫色のオーラが現れ、彼の体をあっと言う間に包み込んだ。
オーラは鈍い光と衝撃波を放ちながら、辺りを吹き飛ばして行く。
それは容赦なく、オセにも襲い掛かった。
「うおおっ……!!!」
彼の体は、辺りの砂と共に宙に舞った。
吹き飛ばされた砂が、キラキラと輝きながら遠くに舞い落ちて行く。
砂は倒れたオセの体にも、容赦なく降り積もって行った。
辺りが、静まり返る。
オセは痛みを堪えやっと体を起こし砂を払うと、辺りを見渡した。
ゾロが放った衝撃波は、半径数十メートルの砂を抉り飛ばしていた。
辺りの砂地は蟻地獄の巣の様に、すり鉢状に変わっていた。
「そ、ゾロは……」
オセの視線は、ゾロがいるであろう方向に自然と移って行く。
すり鉢状の砂地の中心にいる者を目にするなり、オセは思わず声を上げた。