第5章 ・魔王顕現
「悪りい、ちょっと遅くなっちまった」
ゾロは着くなり、オセに素直にそう言って謝った。
彼は、急いで手にしていた生乾きの着流しと腹巻を岩の上に広げ、干し始める。
(……ほう、迷子にならんで戻って来たか……やはり、あの、くいなと言う者の呪縛は、完全に解けた様だな……)
オセはそう思いつつ、遅れて来たゾロに怒る事等せずに、笑顔で彼を迎えた。
「いや、構わん……それより、何かあって遅くなったんだろ?一瞬お前の覇気と魔力が大きくなるのを感じたんだが」
「ああ、気付いてたのか。その辺にいるサキュバスに、ちょっと絡まれちまってよ……まあ、追い返したけどな」
ゾロは何気なくそう言いながら、オセの隣に腰を下ろし、胡座を搔いた。
「ほう、あのサキュバスをか……並大抵の男なら、今頃精を吸われて干からびているところだぞ。お前の精神力の強さは、本当に驚異的だな」
流石のオセもゾロの精神力の強さには、感嘆するばかりであった。
さて、雑談もそこそこに、オセはゾロに戦闘に於ける弱点とその対策の講義を始めた。
「お前は刀での戦闘は全く申し分ない。剣術そのものに関しては、おれよりお前の方が上だ。しかしやはり、魔の肉体を手に入れたばかりで、魔力より覇気の方が強い状態……だから、尚更魔力を上手く使いこなせない」
「……やっぱり、まだ覇気の方が強いのか……で、どうすりゃいいんだよ?」
怪訝な表情で訊ねるゾロに、オセは言う。
「……お前が持っている全ての覇気を、魔力に変換するだけだ」
「覇気を、魔力に変える……?そう言えば、ルシファーの奴、そんな事言ってたな……本当に出来んのか?」
「ああ、勿論出来る……お前が持つ特殊能力だそうだからな……だが……」
口籠るオセに、ゾロは怪訝そうに声のトーンを少し落として訊ねる。
「だが……何だよ」
「まず……覇気とは、ニンゲンが潜在的に持つ、生体エネルギーの一種だ。魔力は我々魔神の生体エネルギーの様なもの……ニンゲンのエネルギーである覇気を一気に魔力に変換すれば、お前の身体、若しくは精神に何らかの変異が起きるそうだ。閣下が、そう仰っていた……」
「変異?この前のとは違うのか?どんな風に変わんだよ」
ゾロは、先日のレギオンとの戦いで、自分の目の色が変わり、全身から漆黒のオーラが立ち昇った、と言う話を思い出した。
