第4章 ・対峙
一方、目の前にいるサキュバスは、彼の持つ男の色気と強力な魔力、そして恐怖を全身で感じた為か、すっかり抜け殻の様になってしまっていた。
ゾロは全く何もしていないのだが、彼女は何かされたかの様に独りで勝手に感じてしまい、その両足はガクガクと震えていた。
そして、目の前で白目を剥き、独り震えている彼女に目を遣ると、ゾロは呆れて呟いた。
「……イッちまってやがる……アホか、こいつは……淫魔って、こんなアホな奴ばっかりなのか……?」
彼の呟き等、彼女には聞こえないのであろう。
ゾロはまた、深い溜息を一つ吐いた。
「……ほらよ。お前の友達はあっちにいるからよ……もう行けよ。お前等、あんまり男を甘く見るんじゃねえぞ……逆に痛い目に遭うぜ。特に……おれはな……」
ゾロは呟く様にそう言うと、彼女の目の前で思い切り柏手を打った。
パン、と高い音が一つ、辺りに響く。
「……はっ……!!あっ……ごっ、ごめんなさいっ……本当にっ、本当にごめんなさいっ……!!」
柏手の音でやっと我に返った女は、呪縛が解けたかの様にその場から急いで離れると、もう一体のサキュバスを連れ、全裸のまま一目散に逃げて行った。
彼女達の姿が見えなくなると、ゾロはまた大きく息を吐き、心の中で独り言を呟いた。
(あいつ等、相手が悪かったな……しっかし、エロコックの奴だったら間違いなく、一発で持って行かれてたぜ……他にもヤバい奴がいるってのに……おれ達の世界にも出入りしてる淫魔か……こりゃあ、ちょっと……厄介だな……)
彼は頭を右手で軽く掻くと、洗濯の続きをしようと振り返る。
そこにあった筈の服は、何時の間にか水底に沈んでいた。
「……ったく……」
ゾロは面倒臭そうに息を大きく吸い込むと、息を止めて水中に潜って行った。
暫く後。
ゾロは、綺麗になった体に傷薬を塗りたくると、まだ生乾きのボクサーパンツとズボンを履き、アドラメレクが作った帯刀ベルトを巻いて、それに刀を三振り差した。
そしてまだ乾き切っていない服と腹巻を手にすると、オセの待つ場所迄、足早に戻って行った。