第4章 ・対峙
普段はおちゃらけているばかりのルフィであるが、船長は船長。
ゾロは、船長命令には必ず従う男であるので、ぶった斬りたくなっても、仲間であるサンジはぶった斬れないのである。
そんな彼に、オセは言う。
「いいか、ゾロ。王とは……先程も言ったが、一国を纏め、強大な兵を率いる立場にいる者だ。たった一人のニンゲンの小さい言動にいちいち反応している様では、いざと言う時に冷静に対処出来んぞ。それはお前も、重々判っている筈だ」
「……そりゃ、お前の言う通りだけどよ……あいつは何時もカチンと来る事しか言わねえんだぜ……一体、何だってんだろうな」
「……お前は、サンジの生い立ちを知っているか?」
「んなもん、知るかよ。聞いた事もねえ。それが何だってんだ」
ゾロは内心、苛付いて仕方なかった。
ここに来て、サンジの話が出て来るとは思ってもみなかったのだろう。
言葉を吐き捨てる様に言う彼に、オセはある話をし始める。
「……調査では、あいつは出来損ないと言われ、兄弟に虐げられ、父親に見捨てられ、終いには牢に閉じ込められていたそうだ。幼い頃に姉の手で東の海……イーストブルーだったな。そこに逃がされ、今に至るそうだ」
「あぁ?あいつが?」
初耳だった。
全く聞いた事のない話だった。
思わず眉を顰めたゾロに、オセは頷き話を続ける。
「そうだ……だからこそ、お前に突っ掛かるのだろう……まともな兄弟喧嘩等、奴は出来なかっただろうからな」
「……おれぁ、兄弟はいねえし、親の顔も覚えちゃいねえ。親子喧嘩とか兄弟喧嘩とか、そんなもんしたいと思った事さえねえ……そんなの理由になるか。それだけが原因じゃねえだろ……おれからしたら、ウザってえだけだ」
ゾロは眉間に皺を寄せながら、言葉を吐き捨てる様にそう言った。
サンジの悲劇とも言える過去等、彼に取ってはどうでも良い事であった。
そんなゾロの脳裏に、自身の幼い頃の記憶が蘇る。
彼が物心付いた時には両親は既に他界していたのだが、何故か不思議と寂しいと思った事はなかった。
不意に、彼はその頃に感じていた『存在』を思い出す。
(あの時確かに……誰かが……おれを、見ていた様な……)
確かに近くにいるが、目には見えない存在。
ゾロは、幽霊の存在を信じる事等なかったのだが、子供の頃には、そんな感覚があったのだ。