第3章 ・予兆
強靭な肉体と強力な覇気の持ち主でなければ、閻魔に覇気を過剰に放出されてしまい、その体はたちまちに干からびてしまうのだ。
閻魔が『妖刀』と言われる所以である。
フツヌシは、ゾロに言う。
「お前は既に知っているだろうが、刀とは本来、『人を斬る為に作られた道具』……お前の世界で妖刀と呼ばれる刀は、その刀の役目を真っ正直に果たしているだけだ」
「ああ、その通りだ」
「そしてその刀に対する畏怖の念や恐怖、呪いが刀を妖刀にしている……それがお前の世界も含め、別世界のニンゲンが言う妖刀だ。だが、我々魔神が言う妖刀は、それらとはまた別の代物。持ち主の魂の一部を宿し、その命令を忠実に実行する……それが我々の世界の『妖刀』『霊刀』『魔剣』等と言われるものである」
「……持ち主の命令に従う刀……」
「そうだ。故にその閻魔は鬼徹と同じく、性格は前とは全く違うぞ」
フツヌシの言葉を聞きながら、ゾロは閻魔を左手で鞘から抜刀する。
途端、彼は目を丸くした。
刀をニ、三度軽く振りつつ、フツヌシの顔に目を遣った。
「……本当だ……凄え、嘘みてえに静かだぜ、こいつ……今迄なら抜刀した途端に、おれの覇気をいい様に吸い取りやがったのに……」
「それは、今のお前の心が静かだからだ。いざ戦いとなれば、お前の意思と連動して、たちまち内に秘めた殺気を顕にして暴れ出すぞ。勿論、お前の意思で刀をコントロール出来るから、覇気や魔力を吸い尽くす事もない。閻魔、鬼徹、そして和同一文字……全て同様だ」
フツヌシの言葉を聞きながら、ゾロは腰に差している和同一文字に目を遣った。
くいなの形見であるその刀は、大業物二十一工の中の一振りであり、その価値は、時価にして一千万ゼニーとも言われている代物である。
勿論、妖刀ではなく、妖刀と言われた事もない刀だ。
彼は閻魔を手にしたまま、和同一文字を慣れた手付きで右手だけで素早く抜刀する。
途端、ゾロの目付きが変わった。
見た目は大人しい和同一文字であるが、その刀身の奥底から沸々と湧き上がる殺意を、彼は感じ取ったのだ。
途端にゾロは、邪悪な笑みを見せた。