第3章 ・予兆
「いやいや、何でもない、気にするな……さて、次の講師はデカラビアじゃぞ。宝石と薬草、そして鳥類の事を良く学ぶが良い」
ゾロはフォルネウスの返事に無言で軽く頷くと、不意に笑顔を見せた。
彼の脳裏に、仲間の顔が浮かぶ。
「宝石に薬草か……ナミとチョッパーに教えてやりてえ内容だな。鳥は……」
ゾロの脳裏に、ルフィの顔が浮かぶ。
彼が何か言おうとしたその時。
デカラビアの鉄拳が、彼の右側頭部を襲った。
「焼き鳥にして食う等と言うつもりであろう……!!この罰当たりめがっ!!!」
デカラビアは目尻を吊り上げながら、ゾロの頭を星型の右の角の部分で、ツンツンと小突いた。
力を入れて小突かれた為か、ゾロの頭に殴られた様な強い痛みが走る。
「うおっ!?痛ってえっ!!」
ゾロは小突かれた所を右手で押さえつつ、デカラビアの意外な力強さに、彼は思わず仰け反った。
「吾輩が教える鳥は、タダの鳥ではないのだ!!!その辺もよーく教えてやるから、しっかり覚えるのだぞ!!!ぷんすか!!!」
「……いや、おれぁ、焼き鳥とか言ってねえし……ま、まあ……言おうと思ってたけどよ……」
「そら見た事かっ!!!全く本当に失敬な奴だ!!!ぷんすか、ぷんすかっ!!!」
デカラビアがぷんぷんと怒る度に、その赤い体は更に赤くなって行く。
ゾロは星型の魔神のそんな姿に思わず噴き出し、下を向いて肩を震わせながら、慌てて右手で口を押さえた。
「何だっ、何がおかしいんだっ!!!ぷんすか、ぷんすか、ぷんすかっ!!!」
「……も、も、もうダメだ……あ、あは……わはははははっ!!」
ゾロは観念した様に、声を出して笑い始めた。
何時以来であろう、彼が声を出して大笑いしたのは。
ルフィの仲間になり、命懸けの戦いに明け暮れる毎日を送る様になってから、彼は何時の間にか、声を出して笑う事と言う事をしなくなっていたのだ。
ルフィを始め、仲間とのやり取りや、船の上での生活が楽しくない訳ではない。
『ルフィと仲間、船を守る事、先頭に立って命を賭けて戦う事が、おれの役目だ』
これは、ゾロが常日頃から思っている事である。
麦わらの一味に加わる前から、彼は戦いの毎日を送って来た男である。
戦いの中に身を置き、戦いに明け暮れる毎日を送る事は、彼は嫌いではない。