第1章 ・帰還
「……っ……!!!」
男の呼吸が一瞬、止まった。
彼を取り囲んでいるのは、見た事のない異形の者達だ。
男は、思わず大声で怒鳴った。
「な、なんだ、てめえら……!!」
そして、咄嗟に片膝を付き戦闘態勢を取る。
少年が彼を取り囲む者達を一瞥すると、彼等はすぐにその場を離れ、広間の奥に控えた。
男は少年に鋭い視線を送りつつ、右腰の刀に手を掛ける。
が、そこに何時もある筈の刀がない。
(刀が……ねえ……何処だ!!)
男は焦り辺りを見渡すが、刀など何処にも見当たらない。
彼の耳に、少年の声が届く。
「……君の刀なら、ここにあるよ。三振り全部……無事だ」
少年は全て見越しているかの様に微笑みながら、男にそう告げた。
彼の後方に、確かに三振りの刀が刀掛に納まっているのが、彼の目に入る。
途端、男は少年を鬼の様な形相で睨み付けた。
鋭い目付きが、更に鋭さを増す。
そして、大声で怒鳴り始めた。
「てめえら一体何者だ!!!おれの刀をどうする気だ!!!さっさと返しやがれ!!!」
「まあ、待ち給え……まず、君の名前を教えてくれないか?答えられれば、刀は全てお返ししよう」
少年は相変わらず笑みを浮かべたまま、穏やかな口調で彼に言う。
(……こいつ……強ええ……)
少年の美しい微笑みの中に、男は得体の知れない力を感じた。
彼はその力に負けない様に、大きな深呼吸を一つすると、落ち着いた口調ではっきりと質問に答えた。
「おれは……ロロノア・ゾロ!!!」
ゾロと名乗った男の、低くドスの効いた声が、辺りに響く。
その目は相変わらず、いや、先程以上に殺気に満ちていた。
(おれは……相手が誰だろうと……相手がどんなに強かろうと……絶対負けねえ……負けられねえんだ……!!)
正体不明の者達に囲まれている状態である。
彼には、一戦交える覚悟が既に出来ていた。
灰色掛かった黒い瞳が、一瞬で赤色に変わる。
彼の体全体が、一瞬緑色と金色に包まれ、更に赤と黒の稲妻の様なオーラが現れた。
殺気立った目、鬼の様な形相。
その姿と力に少年は感嘆し、控えている四名も思わず目を見張る。