第3章 ・予兆
「魔法使いどころか、お前さんは魔王族……魔法使いの上司の上司の、そのまた上司の上司に当たる者じゃぞ。まあ、今迄ニンゲンだったお前には突然の事で……真実を知ったの時は、少々酷だったかも知れんがな」
「酷か……いいや、そんな事はねえよ。寧ろ自分のルーツがはっきり判って良かったぜ。悪魔の血のせいか……ここはムチャクチャ楽しいしな。ここに来たのは、必然だったんだろ……じゃ、おれは、ちょっと休むよ」
「……うむ、ではまた二時間後に」
フォルネウスの言葉にゾロは無言で頷くと、その場に横になり、頭の後ろで両手を組みつつ目を閉じた。
キラキラと輝く柔らかい砂地は程良い暖かさで、彼はその体に心地良い感触を覚えつつ、眠りに就いて行った。
デカラビアがその場に現れたのは、それから間もなくの事である。
デカラビアとフォルネウスは永きに渡る親友で、行動を供にする事も多い間柄であった。
星型の魔神は美しい公園を見回しながら、エイの姿をした友に声を掛ける。
「フォルネウス、お疲れ様、だな」
「おお、デカラビア、来たか。今、暫し待て。未来の魔王が、休んでいるのでのう」
フォルネウスは、少し声を低くしてそう言った。
デカラビアは親友の声に合わせる様に、静かに訊ねる。
「おお、そうか。してどうだ、そのゾロの様子は」
「うむ、なかなかに素晴らしい才能の持ち主じゃぞ。わしが教えた事全て、この数時間で完璧に覚えおったわ。流石、魔王族の血と魂を受け継いだ者……いや、それだけではない……思った以上に頭の切れる奴でのう、元々頭の良い奴なんじゃろうな。その上努力家と来たもんじゃ…飛んでもない逸材じゃぞ、奴は」
「おお……それは素晴らしい、教え甲斐があると言うものだな……しかしまさか、この男がな……閣下が喜ばれるのも、無理はないか」
「……永い間、お待ちになられていたんじゃからのう……まあ、奴は、何も覚えていないんじゃろうがな……」
フォルネウスはそう言いながら、少し離れた場所で眠るゾロに目を遣った。
彼は大きな鼾を搔きつつ、既に深い眠りへと就いていた。
……ゾロはふと、目を覚ます。
しかし辺りは真っ暗闇で、何も見えない。
闇の深淵、闇の底の底の様な場所。
だが彼は、恐れる様子もなく、ただただ闇に身を委ねていた。