第3章 ・予兆
言い終わるや否や、彼がまた嚔をしたので、フォルネウスは半ば呆れながら言う。
「やれやれ……ほれ、これで鼻をかむが良い」
フォルネウスが右の鰭を一振りさせると、目の前にティッシュボックスが一つ、現れた。
彼はそれを、ゾロの前にそっと差し出す。
「ああ……ありがとう」
ゾロは、苦笑しつつティッシュボックスを受け取ると、箱からティッシュペーパーを何枚か摘み取る。
その箱には、愛くるしい小動物の写真がプリントされていた。
薄く柔らかく優しい肌触りのそれは、彼の住む世界のものとは、かなり違っていた。
ふわりした優しい肌触りにゾロは驚き、一瞬使う事を躊躇う。
それは『地球』と呼ばれる、別世界の人間達が作ったものの一つであった。
ゾロはこの数時間余りで、魔界の言語の他、彼の住む世界である『青い星』の古代文字、そして『地球』と言う星にある世界の言語の幾つかを学び終えていた。
それに加え大雑把ではあるが、魔界と地球との繋がりや歴史をも、彼は学び、身に着けたのである。
この『ダアト』と呼ばれる魔界が、嘗ては『トウキョウ』と呼ばれる、人間が住む大都市であった事。
そして、何故トウキョウが魔界になったのかを、彼はこの時学び知った。
また、ゾロが住む世界である『青い星』の古代文字は、世界政府に研究を禁じられている為、読める者が殆ど存在していない状態であった。
彼はそれを、この短時間で懸命に覚えたのである。
ゾロの世界の歴史……『空白の百年の歴史』は、古代文字同様、世界政府によって隠蔽されている為、それを解明しようとする考古学者が島諸共、世界政府によって粛清されたのである。
彼の仲間であるニコ・ロビンもまた、歴史に詳しく古代文字を読めるが故に、幼い頃から世界政府に追われている身なのであった。
青い星の世界に住む、ほぼ全ての人々が知らない歴史。
世界政府が、何故必死に歴史を隠そうとしているのかも、謎に包まれていた。
ゾロの住む世界と魔界との繋がりは、遥か昔からあった様である。
が、しかし、青い星に存在する悪魔の実と魔神にどんな関係があるのか迄は不明な点が多く、流石のフォルネウスも、判らない事案なのであるのだが。
「古代文字を読める様になっただけで十分だよ。ありがとうな」
ゾロは笑って、フォルネウスにそう礼を言った。