第3章 ・予兆
サンジの周りに、一陣の風が吹き砂埃が舞う。
ルイ・サイファーと名乗った美しい少女は、風と共に、サンジの目の前から姿を消した。
「……おれは、夢を見ていたのか……?いや、でも……」
サンジは、暫くフワフワとした感覚に陥っていたが、術が解けたかの様に、先程の話を急に思い出す。
そして、慌ててポケットから電伝虫を取り出した。
「……さっきの話……急いでみんなに伝えねえと……」
そう独り言を呟くサンジの脳裏に、少女が残した最後の言葉が響く。
『……彼は恐らく、君達の知っているゾロではないかも知れないよ……』
「……おれ達の知ってるマリモじゃねえって……一体どう言う事だよ、ルイちゃん……」
電伝虫を見詰めるサンジの心に、不吉な予感が過った。
(……おいマリモ野郎……てめえ、一体何処で何してやがるんだ……一体、お前の何が変わるってんだよ……)
サンジは心の中で、そう独り言を呟いた。
その時、また一陣の風が彼の体にぶつかり、勢い良く吹き抜けて行った。
……同じ頃。
「……ヘックショイっ!!」
サンジのその思いが風に乗り、ダアトに迄届いたのだろうか。
タイミング良く、ゾロは大きな嚔を一つした。
彼は鍛錬の為、ダアト内にある『シンジュク御苑』と呼ばれる自然溢れる美しい公園にいた。
ここも大戦中は争いの絶えない場所だったのだが、戦いが終わった事で平穏な場所に変わり、以前にも増して仲魔達の憩いの場の一つとなっていた。
公園のあちこちでは、様々な種族の、沢山の仲魔達が楽しそうに戯れている。
優しく美しい光を放つ白砂。
目を楽しませてくれる美しい木々。
そして、湖の底迄見える程に澄み渡る水が、彼等の心身の癒やしとなっていた。
湖の中心には、高さ数十メートルもある、飴色の様な不思議な色合いをした、美しい大木が聳えている。
この庭園の片隅で学んでいるゾロを静かに見守るかの様に、それは佇んでいた。
そのゾロの大きな嚔は、辺りの静寂を破り、彼と会話を交わしていたフォルネウスの体を思い切り仰け反らせる程であった。
エイの姿をした魔神は、思わず大きな声を出す。
「うおおっ!?ビックリしたーっ!!!」
「あー、悪りぃ。砂埃のせいか……なんか、鼻がムズムズしてよお……」