第3章 ・予兆
その姿は、まさに不審人物である。
そこに大勢の人がいたなら、直ぐに警察に通報されていたであろう。
彼は鼻の穴を膨らませ、鼻息も荒い状態で少女に声を掛ける。
「はあいっ、そこの美しいレディ……初めまして。こんな辺鄙な場所に……お一人で?」
「君が、サンジ君……だね。お初にお目に掛かる……」
「お……おおおおおーっ!?おれの事をご存知とは……いやー、こんな美少女に名前も顔も知られてるなんて、おれはなんて、幸せな男なんだーっ!!!」
彼の思考能力がゼロになる。
両手を上げ、その場でクルクルと何度も回った。
ここは、ワノ国の片隅に不時着した鬼ヶ島……つい数時間前迄、カイドウの拠点であり戦場だった場所なのだ。
彼は全く警戒する事もなく、手放しで狂喜乱舞している状態である。
(……なるほど……奴から話は聞いていたが……ここ迄女性好きとはな……)
少女は、心の中で独り言を呟くと、非常に冷たい視線をサンジに向けつつ、静かに話し始めた。
「……サンジ君、君に伝えておかなければならない事があるんだが……」
「うおおおおおっ!!何でしょう、美しいレディーっ!!!」
サンジの激しいリアクションに、少女は思わず身を引いた。
(……この私が狼狽えるとは……奴の言う通り、この男は……やはりおかしい……おかし過ぎる……)
少女は何とか気を取り直すと、落ち着いた口調で話を続けて行く。
「……君達の仲間であるロロノア・ゾロの事なんだが……彼は今とある場所で文武の鍛錬をしている。明日から数えて七日後の、午前二時から午前四時頃迄の間に、この場所より南に六百メートル行った地点に戻って来る予定だ。その事を伝えに来たのだ……他の仲間にも、そう伝えてくれ給え」
「なっ……君はあのマリモ野郎……いやいや、ゾロ君の事を知っているのか!?」
「勿論、彼と私は親友だからね。戦いの傷も癒えて元気にしているから、安心してくれ給え」
サンジは、仰天した。
女に興味がないどころか、女に対して気遣い等全くない無骨で無粋なゾロと、この可憐な美少女が親友だと言うのだ。
サンジは、激怒した。