第3章 ・予兆
サンジは強い騎士道精神の持ちで『女は死んでも蹴らない』と言う強い信念の持ち主なのだが、女を見る度にハイテンションになり、時には女を見るなり大量の鼻血を出し捲ると言う、とにかく女にはめっぽう弱い、非常に女好きな男でなのである。
それ故に、女より酒と強さを求める硬派なゾロは、軟派なサンジを名前で呼んだ事はなく、彼の渦を巻いた様な眉毛を揶揄し『グル眉』『クソコック』等と呼び、サンジもゾロの緑色の短髪を揶揄して『クソマリモ』『マリモヘッド』等とお互いに罵り、呼び合っているのだった。
しかし、内心は互いにその実力を認めており、陰では頼りにし、また心配する仲でもある。
特に、人一倍優しい性格のサンジは、他人を思い遣る心は元より、例え自分に酷い事をした相手にでも、優しさで答える男なのだ。
例え相手が、あのゾロであっても、である。
彼は携帯灰皿をズボンのポケットから取り出し、咥えていた煙草をそれに捩じ込むと、左手で携帯灰皿を、ぎゅっ、と握り締めた。
「……やっぱりどっかに埋まってやがるかも知れねえな……仕方ねえ、手辺り次第掘るしかねえか……あのクソ剣士、見付けたらタダじゃおかねえからな……!!」
そう文句を言いつつも、サンジの顔には焦りの色が見えていた。
仲間達には心配ないと言ったものの、ゾロは副作用の強い秘薬を打ち、大看板のキングに戦いを挑んだのである。
勝っていたとしても無事で済んでいる筈がないのは、明らかであった。
(まさか……いやいや、あのマリモが……簡単にくたばるが訳ねえ!!)
サンジは頭に浮かんだ最悪な事態を打ち消す様に、何度も何度も頭を横に振る。
そんな彼の視界に、一人の美しい少女の姿が突然飛び込んで来た。
純白のシンプルなドレスを身に纏い、金色の美しい長い髪を靡かせながら、彼の前に静々と歩み寄った。
彼女の金色と銀色のオッドアイが、美しくも冷たく光る。
その瞬間、サンジの心の中にあったゾロの姿は、一気に何処かへ吹き飛んで行った。
「お……お……おおおおおーっ!!?こんな所に……可憐なレディがーっ!!!」
少女が視界に入るなり、サンジは激しい興奮状態に入った。
その目がハートに、両足がフニャフニャ状態に変わった瞬間、彼は信じられないスピードで少女に近付いて行った。