第2章 ・血脈
ゾロは、先程サインをする時に付けたばかりの、右手親指の傷に目を遣った。
(そうだ……魂は滅多な事じゃ消滅しねえ。魂がある限り、おれは、死なねえんだ……)
ゾロは、心の中でそう呟き、そしてニヤリと笑ってベリアルに言った。
「……そうか……それでおれの血は、あんなに真っ赤になってたのか……べリアル、ありがとうな」
ゾロは、べリアルに素直に礼を言った。
「何、礼には及ばん。未来の魔王を助けられたのだ……わしの方こそ、大変光栄に思っておるよ」
ベリアルは、そう言って手にしていた槍を軽く振り上げる。
魔王として、同じ一族であるゾロを助けられた事を、彼は大いに喜んだ。
「因みに、べリアル卿は七十二柱の魔神であり、僕達と同じ魔王族でもあるんだ」
「へえ、じゃあ、ベリアルも魔王なのか」
「うん、そうだよ。そして、君はニンゲンと我々魔神の混血種……半人半魔の存在……早く言えば『デミゴッド』だ」
「で、デミゴッド……おれが、か?」
ゾロの呟きに、ルシファーは大きく頷き、言葉を続ける。
「ニンゲンと魔神……特に魔王族との混血種はデメリットもあるが、あらゆる面で驚異的な力を発揮する。しかも、君はべリアル卿の血をも受け継ぎ、見事に覚醒したんだ。言語なら、半日もあれば覚えられるだろう」
大魔王のその言葉に、四名の魔神は大きく頷いた。
後ろで控えていたオセは、少し前に進み出ると、主に頭を下げる。
「……畏れ多くも、閣下の仰る通りでございます」
そう言った後、今度はゾロに視線を移し、言った。
「……ゾロよ……お前には、元より魔王様の血肉と、べリアル卿の血肉がその体に備わっているのだ。しかも、お前は三色の覇気使い。魔力も覇王色の覇気も今は不安定だが、鍛錬次第で強力になる……最強の魔王になる事は間違いない。まあ、閣下には、到底及ばぬだろうがな」
オセは腕組みし、得意満面の体でゾロを見ている。
しかし当のゾロは、眉を顰め、何処か浮かない表情を見せた。
彼は、首を傾げながらルシファーに訊ねる。
「……そう言やあ、お前、おれが戦ってる時にも覇王色の覇気がどうこう……言ってたよな……おれはそんな大層なもん、身に付けてねえぜ?」
それを聞いたルシファーとオセは、思わず顔を見合わせた。
オセは呆気に取られ、開いた口が塞がらない。