第2章 ・血脈
「さっき会おうが昔会おうが……そんな事は問題ではない。君こそ僕をすぐに信頼して、こうして仲魔になってくれたじゃないか。僕は、君の肉体的、精神的強さ……そして何より、その正直さが本当に気に入ったんだ。これからは他の仲魔と共に、我々魔神の為、魔界の為に、尽力して貰いたい」
そう言うと、少年は立ち上がり帽子を脱いで一礼した。
ゾロは少年の思い掛けない言動に驚きつつ、慌てて立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待て!マジかよ……」
ゾロは深呼吸を一つしてから、言葉を続けた。
「お前、ルイ・サイファーって言ったな。ありがとうよ、おれの方こそ、宜しくな」
立ち上がったゾロに、少年は右手を差し出した。
慌ててゾロも右手を差し出すと、二名は固い握手を交わした。
大魔王に心から気に入られたゾロは、今迄感じた事のない緊張感と高揚感に包まれた。
これ迄、数多くの強敵を相手にして来た彼であるが、目の前にいるのは人間の手では届かない世界を統べる、真の強者である。
何時も強い相手と戦う事を好む彼であるが、この大魔王と戦うと言う気は、何故か微塵も起きなかった。
少年と会った時のあの警戒心は、一体何処に飛んで行ったのであろう。
彼の心の中にあった疑念は何時の間にか消え、この短時間で信頼を寄せる迄になっていた。
(おれぁ、こんな強え奴に会えただけで嬉しいぜ……話してるだけなのに、体が震えて来やがる。おれも、何時かこんな魔王になれるんだろうか……なりてえなぁ……)
心の中で独り言を呟き、思わず顔がニヤついてしまいそうになる。
ゾロがここまで他の存在に心酔したのは、これが初めてであった。
永きに渡り、数多くの仲魔達を纏め、その仲魔達から崇められている絶対的存在。
ゾロの心は、美酒に酔った時の様に、いや、それ以上に、完全に大魔王に魅了されていた。
そんなゾロに、少年は声のトーンを若干落とし、耳打ちする様に言った。
「……ゾロ、実はね、ルイ・サイファーと言う名は、偽名なんだよ……」
少年の突然の告白に、ゾロの目が思わず点になる。
「あ?なんだ……偽名だったのかよ」
ゾロは思わず、ぽかんと口を開けた。
少年は微笑みつつ、彼に本当の名を明かす。
「僕の本当の名は『ルシファー』だ。『明けの明星』と呼ぶ者もいるけどね」