第2章 ・血脈
すると、その切った親指の腹から、燃え滾る溶岩の様な真っ赤な血が溢れ流れ出た。
ゾロは、思わず目を見張る。
(あ……?おれの血って、こんな真っ赤だったけか……?)
彼は首を傾げつつ、血に染まった親指を契約書に書いたサインの上に押し付けた。
これで契約は成立したのであるが、その内容を改めて読んだ彼は、何故か眉を顰め首を傾げている。
「しかしよ……こんな契約書とか決まりなんてよ、要らなくねえか?悪魔は自由なんじゃねえのか?自由自由って言ってる割にはよ……」
「いや、僕も君と同じ事を思ったんだけどね。他の魔王や部下が、ある程度は作った方がいい、と提案して来たんだよ。それで契約書を作る事にしたんだ。規則を作る事も自由の一つだと、僕はその時理解したんだけどね……もう遥か昔の話だよ。懐かしいね……ねえ、デカラビア」
「ははっ、仰せの通り……しかし、今となっては……作って置いて正解でしたな、閣下」
「うん……本当に、そうだね」
デカラビアの言葉に、少年はそう言って大きく頷いた。
少年の瞳が、一瞬鋭い光を放つ。
一方のゾロは、彼等の意外な政治体制に、関心するばかりだった。
「お前等……独裁政治で統治してる訳じゃねえんだな。決まり事なんてこれしかねえ……そんでみんなお前に付いてってるんだろ?凄えじゃねえか」
ゾロは感心しつつ、サインを書き終わった契約書を少年に手渡した。
「まあ、本来、僕達は神や天使だったからね。統治って言うか……永い戦いで、培われて来たものでもあるんだ」
「戦い?戦争でもあったのか?」
ゾロの問いに、少年は小さく頷き、そして言った。
「……大昔にね、創造主と呼ばれる唯一神……僕達は『四文字の神』と呼んでいるんだけど……そいつが突然天界に現れて、僕達やニンゲンを束縛しようとしたんだ。僕はそいつのやり方に疑問を持ってね、それで他の天使や神々と共に反逆したんだよ。勝手に他の神々を異教の存在にして『自分こそ神だ』と言い張り、ニンゲンからあらゆる『自由』を奪ったのが許せなくてね。それが、戦いの始まりだったんだ」
「そんな事あったのかよ……それで、どうなったんだ?」