第2章 ・血脈
ゾロはそう言って、満面の笑みを少年に向けた。
彼は生まれてこの方、まともに働いた事等なかった男である。
最強を目指して海に出た彼は、ルフィに出会う迄世界政府に指名手配されていた海賊を倒し、その懸賞金で生計を立てていたのだ。
ゾロはこの時、生まれて初めて『定期的に報酬を貰う』と言う契約を結ぼうとしているのである。
「おれよぉ、生まれて初めて給料って奴を貰うんだ。人間辞めた海賊がよお……なんか、面白れえな。これで酒飲み放題だ!!へっへっへ……楽しみだぜ!!」
ゾロはまだ手にしていない初任給で酒を買おうと計画を立てるゾロの表情は、真夏の太陽の様に明るく、爛々と輝いている。
少年は、そんな彼を笑顔で見詰めつつ、彼に訊ねた。
「では、正式に我等が仲魔として、契約して頂けるかな?ロロノア・ゾロ」
「おう、勿論だ。で……サインてよ……おれの名前書きゃいいんだよな……?」
ゾロの問いに少年は微笑みながら、一つ注意を促す。
「そうだよ、君の名前を書いてくれ。間違っても『刀』とは書かない様にね」
「え……あ、ああ……」
それを聞いたゾロは、思わず苦笑した。
ゾロは以前、麦わらの一味の大ファンである『バルトロメオ』と言う海賊の男にサインをせがまれ、色紙に自分の名ではなく『刀』と言う字を書いた事があったのだ。
彼が、サインが本来どう言うものなのか詳しく知ったのは、その数日後の事であった。
ゾロは少し怪訝そうな表情を浮かべつつ、少年に言う。
「……そんな細かい事まで、なんで知ってんだよ。おれを捜してたって割にはよお……なんか色んな事知ってるよな、お前」
「捜していたのは本当さ。まあ、今はちょっとだけ、君の記憶を探らせて貰っただけだよ。ちょっとだけ、ね」
「ああ?おいおい……お前はそんな能力も持ってんのかよ……参ったな……おれの頭の中、あんまり覗かないでくれよ」
ゾロは冗談混じりで、降参した様な口振りで少年にそう言うと、改めて契約書に目を落とし、手にしていた黒羽付きのペンでサインをした。
そして、自身の横に置いてある三振りのうち一振りの刀『三代鬼徹』に、右手を伸ばす。
右手親指で刀の鞘を少し押し出すと、出て来た刃でその指の腹を軽く切る。