第1章 ・帰還
「何と、輸血するおつもりか?もし人違いであれば……我々魔神の血をニンゲンの体内に入れれば、我々の血は猛毒に変わる。輸血などしてしまえば……」
「いや、この者は、確かにあのお方が捜している者じゃ。間違いない……あやつはまだ半身はニンゲンであるが、大丈夫じゃろう。逆に放って置くと危ない……毒に変われば解毒をすれば良い。取り急ぎ、わしの血を使うぞ」
「うむ、それならば……べリアル卿にお任せしよう」
今度は二振りの剣を背負う豹の顔をした者が、赤い龍の姿をした『ベリアル』にそう告げる。
四名はすぐさま倒れている男に向かって瞬間移動すると、べリアルは手にしている槍の先端で、自分の左腕に少し深い傷を付けた。
その傷口から、溶岩の様に真っ赤な血が流れて行く。
べリアルが何やらブツブツと唱えると、彼の傷付いた腕を柔らかな光が包み込んだ。
すると、流れていた血液は拳程の大きさの球体となり、倒れている男の体に吸い込まれて行った。
「よし、これで良い……さあ、あのお方の元へ連れて行くぞ」
べリアルの一声に他の者達は頷くと、倒れたまま動かない男に近付き、不思議な力で男を浮遊させる。
彼等の足元に青白い円形の幾何学模様が浮かび上がった瞬間、一行はその場から一瞬で消え去った。
彼等が目指した場所は、大きな城だった。
その城内に彼等は突然姿を現すと、急ぎ男を城の奥の間に運び込む。
彼等が『あのお方』と呼ぶ者に男を会わせる為に。
薄暗く広い廊下のあちこちで、蝋燭の炎が辺りをぼんやりと照らしながら、ゆらゆらと揺れている。
彼等は奥の間に到着するや否や、男を静かに床に横たわらせると、龍の姿をした者が恭しく跪いた。
「……閣下、ニンゲンの男が一名、ダアト内……トウキョウタワー付近にて倒れているとの報告があり、我等四名は現場に急行……報告通りニンゲンの男が倒れていた為、ここに運んで参りました」
続いて五芒星の姿をした者がクルクルと回りつつ、話し始める。
「……この男、恐らく閣下がお捜しになられている男ではないかと……まだ覚醒はしていない様ですが、我等と同等……いや、それ以上の『魔力』を感じます」