第1章 ・帰還
辛勝だった戦いを思い出した彼は、その眉間に深い皺を作る。
そしてその戦いの後、大鎌を持った不気味な骸骨が不意に襲い掛かって来た事を、彼は朧げに思い出した。
死の世界に住む者だったのだろうか。
現実なのか夢なのかさえも判らない、曖昧な世界の記憶。
そこから先は、何も覚えていなかった。
(……ありゃあ……間違いねえ……死神だ……おれは死んだのか……?じゃあここは、あの世って所なのか……)
彼は、虚ろだった右目をカッと見開くと、その顔に脂汗がどっと流れた。
体の震えが止まらない。
しかしそれは、死への恐怖から来るものではなかった。
(おれの命は、死神でも取れねえんだ……おれは……死なねえ……おれはまだ、死ねねえんだよ……あいつを、海賊王にする迄は……)
目的の為に何としても生きる。
気丈にも死に坑がおうとするが、体中に耐え難い激痛が走る。
(……体が……動かねえ……)
彼はまたそのまま気を失い、その心音は徐々に消えて行った。
……程なくして。
少し離れた所から彼の様子を伺う者達が現れた。
二振りの剣を背負い深緑色のマントを纏う、豹の姿で人間の様に二王立ちする者が、口を開く。
「……ほう、あれは……ダイモーン達の報告通り、やはりニンゲンであるな……あの刀、この男のものの様だ……」
次に、頭に王冠を戴くエイの姿をした者が、宙に浮きながら、口を開く。
「……ニンゲンが迷い込むとは……久し振りじゃのう……三年振りか……」
今度は人間の顔をした、二本脚で立つ紅い龍が、三叉の槍を地面に突き刺しつつ、口を開く。
「……ふむ、肉体は死んではいるが『魂』はしっかり生きておる……おや、彼奴……我等と同じ『力』を感じる……もしかすると……」
最後に、赤色の五芒星の形をした、真ん中に大きな一つ目を持つ者が、宙に浮きクルクルと回りながら言う。
「……うむ……彼奴こそ『あのお方』がお探しになられているニンゲンかも知れん……連れて行って目通りさせねば……」
その時、人間の顔をした二本脚で立つ紅い龍が、再び口を開いた。
「……いや、その前に。あ奴、かなり出血しておる。急ぎ血を供給せねば……蘇生した時、また大変な事になる」
それを聞いたエイの姿をした者が、再び口を開く。