第2章 ・血脈
デカラビアは常に宙に浮き、時折クルクルとその場で側転する様に回転する、何とも不思議な魔神である。
その大きな瞳で少年を見詰めながら、何やら話をしている。
良い報せがあったのか、少年は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……おお、そうか……それなら、デカラビア、お前からゾロに報告するがいい。ゾロ、吉報が届いたよ」
「吉報……?」
眉を顰め首を傾げる彼の前に、星の形をした魔神が進み出る。
「ロロノア・ゾロ……我等が新しき仲魔よ、心より歓迎する。吾輩は、名をデカラビアと申す……魔神七十二柱、序列六十九番目の魔界の大公爵である……コンゴトモ、ヨロシク……」
デカラビアは、少し高く機械的な声で、ゾロにそう話し掛けた。
くるりと回転するデカラビアの大きな青い瞳に、彼の姿がはっきりと映り込む。
星形の紅い体の真ん中に一つ、美しい瞳を持った魔神。
何処か愛嬌のあるその姿に、彼は思わず微笑んだ。
彼が話す言葉は直接は判らないのだが、不思議な事に、ゾロの頭の中に言葉が直接伝わって行く。
デカラビアは、彼の目の前に小瓶を一つ差し出した。
掌に収まる位の大きさの小瓶が、彼の目の前でふわふわと宙に浮いている。
「ゾロよ……先の戦いで、体力も魔力も使い切った事であろう。それは体力と魔力の両方を回復させる魔酒……『ソーマ』と言う物だ。まず、飲むが良い」
「魔酒……?もしかして、酒なのか?」
「そうだ、しかも魔界一の高級酒だぞ」
「な、何っ!!?マジか!!!」
酒と聞いて、ゾロは思わず満面の笑みを浮かべた。
彼は無類の酒好きなのだ。
普段はぶっきら棒で愛想のない男なのだが、酒を目にすると、突然人が変わった様に破顔するのである。
彼は兎にも角にも、酒と刀と強くなる事には、目がない男なのであった。
「おおおーっ!!!そりゃありがてえ!!!遠慮なく頂くぜ!!!」
彼は宙に浮いている小瓶に右手を伸ばすと急いで蓋を開け、少量を口に含んだ。
まずその舌で、ゆっくりと味わってみる。
「う……旨え!!程良い辛口で喉越しのいい……何だよこの酒、ムチャクチャ旨えじゃねえか!!!!」
喜び叫ぶ彼は、残りを一気に飲み干した。
体中に力が漲り、疲れが嘘の様に吹き飛んで行く。
人間の住む世界では味わえない酒の味に心奪われた様に、彼は酔いしれ、大層喜んだ。