第17章 …不惜身命
「……ええ。あの方には命を救われましたし、怪我の手当てをした夜は、ゾロ十郎さんと『添い寝』もさせて頂いたのですよ。とても温かくて、頼もしいお方でしたわ」
それは、モモの助の姉である光月日和の声だった。
その時……ゾロの精神に、針で刺された様な強烈な痛み似た『負の思念』が流れ込んで来た。
それは、ハーデスの心底からの痛みだった。
(……ゾロ様に、この様に美しく高貴なお方が居られたなんて……やはり、私の様な者がゾロ様のお傍に等、居られる筈がない……)
先程ようやく上向いた彼女の心が、再び深い闇の底へと真っ逆さまに落ちて行く。
ゾロの心の奥底に、静かな怒りが湧き上がる。
彼は舌打ちをしつつ、半ば乱暴に襖を開けた。
「あ、ゾロ!日和さんが、ハーデスの様子を見に来てくれたぞ」
「……あら、ゾロ十郎さん」
ハーデスの体調を診に来たチョッパーと、その横で上品に微笑む日和がゾロに視線を移す。
美しい着物に身を包んだその女の瞳からは、男を誘う色が放たれている。
だが、彼の視線は日和ではなく、ハーデスに向けられていた。
布団に臥せっているハーデスの顔色は、明らかに悪くなっている。
日和は、カイドウの手の者から身を守る為に身分を偽り、遊女『小紫』として強かに生きて来た女だ。
ゾロに運ばれ助けられたハーデスに対して、少なからず嫉妬心が芽生えたのだろう。
彼女に対して、牽制を当たり前の様にしてしまったのだ。
だが……。
「……チョッパー、こいつを見といてくれ。おい日和、ちょっと顔貸せ」
ゾロは冷ややかな声で告げると、半ば強引に日和の腕を引き、中庭へと連れ出した。
縁側の静かな庭園。
日和は少し頬を染めながらゾロを見上げる。
「痛いですわ、ゾロ十郎さん。急に二人切りになりたいだなんて……」
だが彼は、掴んでいた彼女の腕を、投げ捨てる様に振り払った。
「……勘違いすんじゃねえよ……言っとくが、あいつは単なる知り合いじゃねえんだ」
静かだが、氷の様に冷たく重い声が日和の言葉を遮った。
その隻眼から放たれる、恐ろしい程の鋭い光に、日和は思わず後退る。
「あいつは、おれ達『麦わらの一味』のクルーになったんだ。このおれを慕って、命懸けで遠い海からここへ辿り着いた、おれの大事な仲間なんだよ」
「……えっ……?」
