第17章 …不惜身命
手紙を読み終えたゾロは渋い表情のまま、便箋を封筒に戻した。
「……全く、あの野郎……直接おれに言えばいいものを……捨て置いて構わねえなら、最初っからおれに寄越すんじゃねえよ……」
ゾロが呟く独り言を気にしつつも、ハーデスは気軽に声を掛ける事も出来ず、布団の中で相変わらずおどおどしている。
そんな彼女を一瞥したゾロは、少なからず、大魔王に怒りを覚えていた。
王の側近という役割……それは単なる護衛係ではない。
仕えた王に命を捧げる覚悟で生き、身辺の世話から、果ては床を共にする事もある。
文字通り、身も心も捧げ尽くす過酷な責務。
目の前の少女の様子から、彼女がまだ男を知らぬ純潔である事は容易に見て取れる。
そんな無垢な小娘を、自分の側近に推薦して来たルシファー。
死皇帝の暴走を止める力を、彼女に見出したからなのだろう。
大魔王の底知れぬ采配に、ゾロは思わず舌打ちをする。
「……ハーデス、お前、幾つだ」
「えっ……あっ……じゅ、十九です……」
ゾロは言葉を失った。
弱冠、十九才。
魔神族であれ冥王族であれ、ゾロの様に特例で上級魔神……魔王となった者を除けば、齢百に満たない者は赤子同然として扱われるのが魔界の常識だ。
この少女は、魔界の基準で言えば『生まれたばかりの赤子』に等しい。
嘗ての冥王の名を冠したこの少女が、何故それ程幼い頃から、王の側近、或いは潜入部隊員として苛烈な教育を受けて来たのか。
彼女の心の内や手紙の内容から、その過去に暗く重い出来事があったのは確かだ。
しかし、三刀流の魔王はそれについて詮索はしなかった。
ただ手紙に書かれていた事実だけを、そのまま伝える事にした。
「……お前、ルシファーから、おれの側近になれって言われたのか?」
「えっ……?そ、側近……!?私が、ゾロ様の……側近、ですか!!?」
その言葉にハーデスは目を丸くするばかり。
しかしゾロは、相変わらず顔色一つ変えずに返答する。
「……その様子じゃ、何も聞かされてねえ様だな。手紙に、お前をおれの側近に推薦するって書いてあった……でもよ、お前まだ十九才だろ。英才教育受けて優秀らしいが、おれの側近ってのは……」
ゾロはそこで腕組みをした。
彼女の顔が一瞬強張る。
『おれの側近を務めるには、かなりハードな仕事になる』