第16章 …異変
か細く、しかし深い慈愛に満ちた声。
心臓が、一瞬止まった様な感覚に陥った。
見聞色の覇気が見せた未来か、あるいは、彼女の思念が闇に乗って届いたのか。
「……ハーデス……」
誰にも聞こえない様な声で、ゾロは思わず呟いた。
それは嘗て、冥界を治めていた王の名。
ゾロは咄嗟に少女の体を抱き上げると、チョッパーに言った。
「おれがこいつを城迄運ぶ」
「え? そのバッグ、サンジとかに持って貰ったら……」
「こいつは城に着いてからだ」
チョッパーの声を遮り、ゾロは続ける。
「今これを無理矢理引き剥がしたら……こいつは二度と目を覚まさねえ」
「えっ……?」
理由は説明しなかった。
だが、ゾロにははっきりと判っていた。
(……こいつは『守る為』に……おれに渡す為に……命を削ってこれにしがみついてるんだ……!)
ゾロは砂地に足を取られない様にしっかりと踏みしめながら、城に向かって走り出した。
その後ろを、サンジが声を荒げながら追って行く。
「おいっ、このクソマリモ!!レディーを救うのは、このおれの役目だぞ!!!待てこのアホ剣士っ!!!」
だがゾロの耳に、サンジの声は届かない。
その後ろを追う仲間達は皆、ゾロのただならぬ様子に気付いていた。
ロビンが走りながら、疑問を口にする。
「……あの女の子……ゾロの知り合いかしら……」
「どうなんでしょう……でも確かに、ゾロさん……何か知っている様な……」
ブルックがそう答えると、皆無言で頷いた。
そして、ウソップが『ある事』に気付き戦慄する。
「ぞ、ゾロの奴……道に迷ってねえ……」
「……そう言えば……真っ直ぐ城に向かってるわね……」
「な、何だってんだよ……気持ち悪りぃなあ、おい……」
ウソップの体に、一瞬鳥肌が立つ。
先を走っていたゾロは、城に着くなり、すぐに城の者を呼んだ。
「おい、キン!!!モモでもいい!!!誰かいねえか!!!」
「おお、ゾロ!!!生きてて何よりでござる!!!……って、ちょっ……そ、その子は一体、どうしたでござるか!?」
姿を現したのは、術を使い八才から二十八才の姿になったワノ国の新しい将軍・光月モモの助である。
自身がいない間に成長したその姿に内心驚くゾロだったが、今は一刻を争う。