第2章 ・血脈
「ゾロ、何も君が悪い訳ではないよ。約束や契約を守る事は、我々の世界でも非常に重要で大切な事だ」
ゾロは目を閉じたまま、無言で頷く。
少年は一呼吸置いてから、言葉を続けた。
「……この宇宙……ニンゲンを始め、生きとし生けるもの、星、魂、そして我々……全てのものには『思念』と言うものがある」
「……思念……」
「そう……思念……それは感情とも関係があるものだ。喜びよりも怒りや恨み等の負の念は、簡単に大きくなって行くんだ……負の念が強まり、そして怨霊の類になって行く。彼女は、そんな存在になってしまったんだよ」
少年の言葉が終わると同時に、ゾロはやっと目を開け、再びその視線を少年に向けた。
「念……感情……そりゃ、あって当たり前のもんだろ。それが強過ぎても、駄目って事なのか?」
「駄目と言う事ではないよ。元々、良いも悪いもない。全ては個々の自由……どう言う思いを抱いて生きるかは、全て自由だ」
少年はそこで上品に右手を口元に当てると、一つ軽く咳払いをしてから、また続けた。
「……しかし、物事に負の感情や念を強く持ち過ぎると、自分自身は疎か、他の存在にも影響を及ぼす様になるんだ。それを利用しようとする者もいる位、負の念は強力なものだからね……」
少年の話に耳を傾けているゾロの瞳に、少年の姿が映し出される。
ゾロは少年を、じっと見詰めていた。
「念は強力になれば、それ相応の事象を引き起こす一因になる……因果応報だね。本当に面白く、興味深い事象だよ」
少年の話を黙って聞いていたゾロは、腕組みをして思わず眉を顰めた。
ゾロは、目標に向かって強くなる事だけを考えて生きて来た男である。
彼だけでなく、人間の行動には『執念』や『信念』と言う、強い『念』を伴う事が多々ある。
勝つ事への執念、生への執念、そして各々が持つ信念。
彼の頭の中に、更に疑問が浮かぶ。
「おれには、やり遂げなきゃならねえ事がある……その念も、強く持ち過ぎると……他に影響を及ぼす一因になるのか?」
「それが、負の念に転じれば、の話さ。怒りや悲しみ、憎しみは、当たり前の様に存在する感情ですぐに手に入る。だからニンゲンは、悪霊の類に狙われやすいんだけどね」
何処か楽し気に語る少年の言葉に、ゾロは妙に納得し二、三度頷いた。