第2章 ・血脈
「それにしても、実に立派な戦い振りだった。まさかここ迄とはね……流石に驚いたよ」
「……立派、か……うちの船長だけは殺らせる訳にゃ行かねえからな……ただ、それだけだ……」
ゾロはそう言い、また大きな溜息を一つ吐く。
彼は、鍛え上げた大きく逞しい背中を小さく丸めながら、独り言を呟く様に、小さな声で少年に訊いた。
「……くいなは……やっぱり、完全に消えちまったんだよな……」
静かな口調でそう訊ねるゾロの心は、妙に落ち着いていた。
その瞳は、不気味な程に冷ややかな光を放っている。
少年は、そんな彼の内面の奥底まで、しっかりと見通していた。
ゾロの問い掛けに少年は頷き、静かに言葉を返す。
「ああ……もう完全に消滅したよ。しかしあのままだったら、君も、君の船長も仲間達も……危ない所だった」
「……そうだろうな。あいつは……本気でルフィを殺ろうとしていたからな」
ゾロの瞳が、一瞬殺気立つ。
(……誰であろうが、おれ達の……ルフィの邪魔をする奴等は、全て敵と見なす……これからもな……)
彼の表情が、更に険しくなる。
しかしその右の瞳は邪悪な光を湛えつつ、笑っている様にも見えた。
少年は、彼に言う。
「そうだね……あのまま負の念が更に増大すれば、我々や君の世界の脅威になっていた所だ。それに、君の手で彼女の魂を消し去る事が、一番大切な事だったんだよ」
「……おれの手で、くいなの魂を……」
ゾロは顔を上げて、少年の顔を見た。
訊ねられた少年は、小さく頷く。
「……君は、とうの昔に亡くなった彼女との約束に、長い間囚われ過ぎていた。そして、トラウマにもなっていた……呪縛は君自身が解かねばならない……何かを頑なに守ると言う事は、力になる事もあれば、逆に、重い足枷になる事もある」
ゾロは、静かに目を閉じた。
(足枷か……おれは、自分で自分の首も絞めちまってたんだな……約束を守る為とは言え……くいな……もうこれっきりだ……勘弁しろよ……)
彼は、心の中でそう呟いた。
魂が消えてしまった彼女に、その思いはもう届かないと知っていながら。
そしてこれが、彼女への最後の弔いであり、けじめでもあった。
少年は、彼の心中を察しつつ、静かに話を続ける。