第1章 ・帰還
ゾロは立ち上がろうともせず、床に落とした刀を力なく掴むと、静かに腰の鞘に収めた。
そして彼は、心の中で、一人静かに泣いた。
同時に彼は、必死に自問自答を繰り返す。
(おれは……何の為に、誰の為に……?約束……?誰との……)
自分で自分が信じて来た事が、一瞬判らなくなったその時。
ふと、彼の心の中に、声が響き渡った。
(……『おれ』が信じた船長と仲間の為、『おれ』自身の為だろう……しっかりしやがれ……!!『おれ』は、そんな弱い男じゃねえだろう……!!!)
不思議な事にその声は、ゾロ自身の声だった。
だがその言葉に、彼ははっと、我に返る。
彼の目の前に、ずっと一緒に旅をして来た仲間達の顔が浮かぶ。
船長であるルフィの屈託のない笑顔が、太陽の様に輝いて見えた。
「そうだ……おれは……ルフィの奴と……約束したんだ……世界一の大剣豪になるって……そして、ルフィを海賊王にするってな……!!おれは、おれ自身の為に、そしてあいつの為、あいつ等の為……おれはもっともっと、強くならなきゃならねえんだ……!!!」
ゾロは、力強くそう呟くと、不思議と心がふっと軽くなった気がした。
それまでずっとずっと背負っていた何かから、解放された様な気分になった。
その様子をじっと見ていた少年は満足そうに、不敵な笑みを浮かべた。
(お帰り……ずっと待っていたよ……我等が同志……我が親友よ……)
人間から魔の者へと覚醒し始めた男に、少年は心の中で、静かにそう語り掛けた。