• テキストサイズ

魔王之死刀

第1章 ・帰還 


 広大な砂漠地帯。
 天空には壊れ掛けた謎の球体が浮かび、辺りには、かつて都市だったであろう残骸があちこちに残されている。 
 何処からともなく吹く風に、砂埃が舞う。
 その砂漠のとある場所。
 高く聳え立つ、古びた赤い鉄塔の程近くに、男が一人、上半身裸の状態で大の字になって倒れている。
 この世界に存在する筈のない人間。
 何処かで事故に遭ったのか、それとも戦場で倒れたのか。
 どうやってここに辿り着いたのであろう。
 彼のものなのか、その男の周りには、刀が三振り転がっていた。
 男の身体は傷だらけで、その傷口からは大量の血が流れている。
 身に着けているダッフルコートに似た黒い着流しも、所々破れ汚れている有り様だ。
 左胸の鎖骨辺りから右側の腹に掛けて、袈裟懸け状に残る古い刀傷が痛々しい。
 緑色の短髪が何処からともなく吹く風に靡き、左耳の三連の金色のピアスが冷たい光を放っている。
 刀傷の残る左目はしっかりと閉じられ、その瞳は既に光を失っていた。
 男らしい顔付きをしているが、眉は細く瞼は二重で、その横顔は何処か美しくもある。
 暫くして。
 男の手が微かに動き、その右の瞼はゆっくりと開いて行った。

(……お、おれは何を……良く思い出せねえ……)

 やっと意識を取り戻した彼は、その隻眼で、暫くぼんやりと空を見詰めていた。
 白い雲等、何処にも見当たらない。
 彼が何時も見ている美しい青空も見えない。
 その耳には波の音も聞こえず、鼻先を擽る潮風の匂いもなかった。
 うっすらとスモッグが掛かる空の向こうに、ある筈のない陸地が微かに見えるだけである。

(ここは……何処だ……)

 意識は未だはっきりしないが、彼の本能が『知らない世界』と察知する。
 空の向こう側に続く陸地。
 太陽のない不気味な空。
 それなのに、妙に明るい。
 そんな空をぼんやりと見詰める彼の脳裏に、少しずつ記憶が甦る。

(……ああ、そうだ……おれは、あいつと……カイドウの手下の大看板と……戦って……勝ったのは、確かだ……)

 彼の体は全く言う事を聞かず、動く事が出来ない。
 彼の脳裏に甦ったのは、海賊である四皇カイドウの大看板・キングとの壮絶な戦いであった。
/ 131ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp