第1章 ・帰還
少年の助言を耳にしたゾロは、すぐさま行動に移す。
一方のレギオンは彼に突進して行った。
ゾロは心を落ち着け、暗闇に光輝く稲妻を強く思い描く。
(呪文に思念を込める……)
そして、敵に落雷するイメージを具現化する様に、呪文を力強く唱えた。
「……ジオ!!!」
ゾロが叫んだ瞬間、レギオンの頭上に強烈な光を放つ小さな雷が起こると、勢い良く標的にぶち当たった。
「アギャギャギャギャー!!!」
「す、凄え……マジで使えた……!!」
堪らず絶叫する敵を尻目に、ゾロは思わず目を丸くする。
電撃がレギオンを感電させる。
攻撃は一撃で終わったが、レギオンが弱体化したのは明らかであった。
ゾロは、感電し動けなくなった相手に、更に攻撃を仕掛ける。
三振りの刀に、更に魔力を込める。
和道一文字を口に咥えたまま両腕を交差させ、閻魔と鬼徹の剣先を上に向けた状態でレギオンに突っ込んで行った。
「煉獄……鬼斬り!!!」
擦れ違う瞬間に両腕を開き、斜め十字に斬り付けると、レギオンはまたしても叫び声を上げた。
しかし戦闘に集中しているゾロの耳には、その叫びは届かない。
彼は、お構いなしに攻撃を続ける。
「うおりゃあああああ!!!」
彼は閻魔と鬼徹に更に覇気と魔力を込め、今度は左上から袈裟懸け状に斬り付け、返す刀で下から斬り上げた。
「グギャァアアアアア!!!」
レギオンは、断末魔の叫び声を上げる。
その巨体は、見事にバラバラに切断された。
鋭い斬り口から、不気味な赤黒い体液が流れ出る。
切断されたレギオンの肉塊が、赤い気体の様なものを放出しながら、徐々に消えて行く。
「……終わった……」
ゾロは、低い声で呟いた。
金色だった右の瞳は、何時の間にか元の灰色掛かった黒い瞳に戻っていた。
彼は咥えていた和同一文字を口から外し鞘に収めると、消滅寸前のレギオンの肉塊の一部に視線を移した。
彼は、思わず目を見開いた。
レギオンの幾つもある顔の中に、くいなの顔を見付けたのだ。
亡くなったあの時そのままの、彼女の幼い顔が、そこにあった。
もう十年以上見ていない、あの時のままの顔。
しかしその虚ろな両目に、生気は全く感じられない。
彼女の魂は、肉塊と共に音を立てる事なく、ゾロの目の前で静かに消滅して行った。