第1章 ・帰還
少年の返答にゾロは不敵な笑みを浮かべつつ、その視線を怨霊に移した。
彼を纏う漆黒のオーラは見えなくなったが、その右の瞳は相変わらず金色に輝いている。
再び和同一文字を口に咥え、閻魔と鬼徹を握り直し、素早く構えた。
散り散りになった怨霊は、やはり一つの塊に戻っていた。
それどころか、先程よりもどんどん大きくなっている。
一体の筈の怨霊に、何故か幾つもの顔が浮かび、そしてそれは更に、不気味な赤黒い巨大な肉塊へと変化して行った。
複数ある顔と顔の間から、不気味な触手が無数に現れ、ウネウネと動いている。
「……何か別の奴等が集まって来たのか?……もう本当に、くいなでも何でもねえな……」
眠っていた魔力を開放した為か、ゾロは今まで感じ取れなかったものも、感じる事が出来る様になっていた。
彼の読みに、少年は感心する。
「その通りだ、ゾロ。それは『レギオン』と言う、怨霊や悪霊の集合体だ。君の言う通り、彼女は同じ思いを持つ魂……思念体を呼び寄せて一つになったんだ。強烈な恨みや妬み、復讐心を持つ思念体が物体化した存在……それが、レギオンだよ」
聞いたゾロは即座に理解し軽く一つ頷くと、レギオンを鬼の様な形相で睨み付けた。
「ヴゥォオオオ!!」
辺りにレギオンの不気味な咆哮が轟く。
敵意を剥き出し、ゾロに向かって触手を振り上げ唸る様に言葉を発した。
「ム……ムドォ゙オオオ!!!」
レギオンの呟きと同時に黒い気体の塊が現れると、それは容赦なくゾロの体を直撃した。
「うおっ!?」
ゾロは、一瞬思わず怯んだ。
だが彼を直撃した筈の黒い気体は、彼の体に溶け込む様に消えて行った。
ゾロは、自分の身に何が起こったのか、さっぱり判らなかった。
「な、何だったんだ……?今の……」
「ギ……ギゲゲ……?」
攻撃が直撃したにも関わらず、痛みも衝撃も感じない。
仕掛けたレギオンも、意外な出来事に一瞬たじろいだ。
少年は、ゾロに言う。
「ゾロ、今レギオンが放ったのが『魔法』だよ……呪殺魔法の一種で『ムド』と言うものだ。君はそれを、吸収したんだよ」
ゾロは驚き、思わず少年に視線を移す。
「じゅ……呪殺……?呪殺って……呪い、だよな?」
「そう、呪いの事だよ」
「……おれは、呪いも……吸収しちまうのか……?」