第1章 ・帰還
が、当の少年は、心配や不安などは一切なかった。
笑みを浮かべ、ゾロを励ます。
「……使えないと思えば使えないよ。だが君は悪魔……魔神の存在を知り、君自身も魔の者である事を知った。後は、君の中に潜む魔力を感じ、それを解放するだけだ。覇王色や武装色の覇気を纏う時の様にね……君なら出来るよ、必ず使えるさ。僕達の仲魔……なんだから」
少年は、ゾロを信じていた。
二人の視線が交錯する。
少年は、心の中で彼に語り掛ける。
(ゾロ……我等が同志よ……我が両の瞳を見よ。私は『切っ掛け』を与える者……我等が強き仲魔よ、君の帰還を、心から歓迎する……)
少年が不敵な笑みを浮かべたその瞬間。
少年の右の金色の瞳と左の銀色の瞳が、眩いばかりの光を放った。
その瞳を見詰めていたゾロの右の瞳が、連動する様に金色に変色し始める。
一瞬だった。
だが彼は、はっきりと見た。
目の前に現れた、四つの目と十二枚の羽を持った巨大な紅い蛇の姿と、一対の羽を持った巨大な黒い蛇の姿を。
(これが……おれの力……)
ゾロは瞬時に、そう察知した。
彼は自身の体の中に流れる血に、そして細胞の一つ一つに意識を集中させる様に、精神統一する。
彼は自分の中に存在する得体の知 れない力を、はっきりと感じた。
永い間秘められていた、魔の力を。
(覇気と同じ様に……!!)
彼は、魔力と覇気を同時に一気に解放する。
その時、凄まじい衝撃波が起こった。
彼の体は赤と黒、金と銀のオーラで包まれ、眩いばかりの輝きを放った。
薄暗い広間が、一瞬明るく照らし出される。
その眩い光は、赤色と紫色の雷を伴った漆黒に変化し、ゾロの体を包み込んだ。
彼の右の瞳が完全に金色に変わり、不気味な輝きを放っている。
漆黒のオーラを纏い、敵を睨み付けるゾロのその姿と力に、少年は思わず笑みを浮かべた。
(……まだ完全な変異ではないが……何と素晴らしい……この状態を『羅刹』とでも呼ぼうか)
少年は心の中で、楽しげにそう呟いた。
ゾロは笑みを浮かべている少年に、低い声で訊ねる。
「お前……これで満足か?」
「上等だよ、不服等ないさ」
「そうか……だが残念だな。おれはまだまだ、強くなるぜ……?」
「勿論だ、期待しているよ……ゾロ」