第10章 ・対極
鋼の魂が、静かに掌の中で息をしている様だ。
呼吸を整え、照準を合わせる。
一瞬目を閉じ、心を静めた。
そして……引き金を引く。
音は殆どなかった。
的の中心に小さな穴が開いた。
その正確さに、ロキが目を見開く。
「おいおい……マジかよ。初めてでこれか?やるじゃねえか、Brother」
「……手に馴染む。重さも、切れ味も……『良い刀』みてえだ」
ゾロは銃を静かに構え直した。
その姿勢は、まるで居合の構え。
動きの無駄が一つもない。
ロキは笑いながらも、その背筋に、ビリっとした冷たさを感じた。
(……この男の放つ『間』は、剣を抜かずとも、対象を斬っている……)
ゾロの鋭い視線は、まだ的に向けられていた。
ロキは思わず固唾を飲む。
「……その目、やっぱただの剣士……剣豪、じゃねえな。銃もお前の手に掛かりゃあ『斬る』武器になるのかよ」
「……魂を込めりゃあ、銃でも『斬れる』武器になる」
ニヤリと笑うゾロに、ロキは低く口笛を鳴らした。
その後、それまで撃って来た銃を、再び数発ずつ、ゆっくりと撃って行った。
乾いた銃声が壁に反響し、火薬の匂いが微かに漂う。
その短い時間の中で、ゾロから驚く程、無駄な動きが消えて行った。
剣を振るう様に、自然に……。
「おれは、初めて会った奴の気配も、何度か見た剣技も覚えちまう……銃も実際に撃てば……尚更だ」
「……なるほどね……『戦う為に生まれて来た男』……か」
「ん?なんだ?おれの事かよ」
「ああ、そうだ。閣下がよ、Brotherの事をそう言ってたんだ。その意味が、ようやく判ったぜ……」
ロキが半ば呆れた様に笑うと、ゾロは思わず苦笑した。
(……オセも同じ事言ってたな……)
銃声の余韻が、二人の笑いを薄く包み込んで行く。
貸し切りのタイムリミットが迫る頃、ロキの友人であるオーナーがやって来た。
人間の男で、魔王族と七十二柱の魔神にのみ銃や弾を売っている、との事だった。
ゾロは顎に手を当てつつ、男に訊いた。
「魔王族と七十二柱にだけってのは……理由がありそうだな」
「勿論さ。前は魔神族全体に売ってたんだが……ある時、魔神族を名乗る奴が銃を買って、人間を無差別に撃ちやがってな。幸い死人は出なかったが、それ以来、魔王族と七十二柱以外への販売は、禁止になっちまったのさ」