第10章 ・対極
「それは僕からの餞別だよ。せっかくトウキョウに行くんだ、存分に楽しんで来てくれ。じゃあロキ、後は頼んだよ」
「OK!!閣下、お任せあれ!!それじゃあ、Brother……Let's go to Tokyo!!!」
ロキが指をスナップさせた瞬間、足元に青白い魔法陣が広がる。
空気が一瞬震え、視界が白く弾けた。
次の瞬間、立っていたのは、とあるビルの屋上。
初夏の少し温い風が頬を打つ。
見下ろせば、高層ビルの谷間に無数の音が渦を巻いていた。
昼も夜も関係なく、排気ガスとコンクリートの匂いが漂い、人々の声と機械の音が混じり合っている。
高層ビルのガラス越しに朝日が反射して、街全体を明るく照らしていた。
朝の八時前……トウキョウは『シンジュク』……通勤ラッシュの真っ只中だ。
「どうだ、凄いだろ?おれも最初に来た時は衝撃だったぜ。下に降りたら、もっと凄いぞ……行ってみるかい?」
だがしかし、ゾロは返事をする事が出来なかった。
喧騒の中で、ただ立ち尽くしているだけである。
今迄経験した事のない衝撃が、彼を襲っていた。
息をして脈を打っている、命を持つ街。
その大きな背中を、ロキがドン、と叩いた。
「Hey!!剣豪さんよ、しっかりしろ!!ここには楽しい事が山程あるんだぜ。さあ、下に行くぞ……覚悟しな!!!」
再び指が鳴る。
視界が飛ぶ。
ゾロは、一瞬で地上に立っていた。
目の前を、無数の人と車が擦れ違って行く。
スマートフォンの電子音やタイヤの摩擦音、見た事のない空飛ぶ鉄の塊の轟音……全てが生き物の様に息衝いている。
トウキョウ……ニホンと呼ばれる国の首都で、世界中にある大都市の一つ。
人口は約一千四百万人。
多種多様な文化の発信源でもあり、商業施設は勿論の事、交通網も多く非常に活気に満ち溢れている。
都市の中心部には高層ビルが立ち並び、かと思えば、情緒溢れる古い街並みが残る場所も多く存在する。
人間は勿論、そこに住み着いている魔神達も少なくない。
ゾロは思い切って一歩、前へ出る。
目に映るもの全てが異質だ。
だが、彼の世界とは違う『生』が、確かにここにある。
やっと、一言だけ呟いた。
「……ここが……『トウキョウ』か……」