第10章 ・対極
「奴が玉砕した後、私は傷心したナアマを妻に迎えた……彼女に同情した訳ではない。アポフィスを一途な程に愛した彼女に、心惹かれたからだ……」
ゾロは目を開け、サマエルを見上げる。
サマエルの思念が静かに伝わる。
ゾロは、眉を顰めて彼に訊いた。
「ナアマを拒否したおれに、こんな事を言う資格はねえが……お前は、それでいいのか?ナアマの心の片隅には……まだアポフィスが居る。それじゃお前が……」
「……いいのだ、それでも。アポフィスは我が友であった。その友を真剣に愛したナアマが傍にいる……私はそれだけで良いのだ……それが、愛と言うものだ」
「……判んねえ……おれにはさっぱり理解出来ねえ……他に惚れてる男がいる女と一緒にいるなんて、おれには考えられねえよ」
ゾロは何度も頭を横に振った。
そんな彼に、紅い蛇の魔王は言う。
「……愛には、様々な『形』がある。目には見えずともな……男女の愛だけではなく、友愛、博愛……様々な愛があり、様々な形がある。アポフィスは判ってはいたが、受け入れる事なく玉砕して行った。お前はまだ若い……今は判らなくても……何れ判る時が、受け入れられる時が来る……」
サマエルはそう言うと、静かで優しい思念を、ゾロに送った。
(……最強を追い求める男、ロロノア・ゾロよ……愛もまた、強さである事を、伝えておこう……アポフィスよりも強い男になってくれる事を、私は願っているぞ……)
ゾロは、唖然とした表情をサマエルに向けたまま、言葉が出なかった。
(……ナアマと……同じ事を言ってやがる……)
サマエルは微笑みを浮かべつつ、一礼をして静かにその場を後にした。
青白い月明かりが、ゾロを優しく照らし続けている。
彼は、月を見上げた。
それに向かって話し掛ける様に、ゾロは独り呟いた。
「……いや……おれには……そんなもん……」
自虐的な笑みを浮かべつつ、彼もその場を立ち去り、部屋へと戻った。
そしてまた暫く酒を嗜んでからベッドに潜り、眠りに就いた。
……数時間後。
ゾロが目を開けたのは、夜明け前だった。
眠い目を擦りながら、徐に、昨日着たTシャツを手に取る。
身支度を整えると、窓辺の椅子に腰掛け、夜が明けるのをぼんやりと見ていた。
月が太陽にゆっくりと変わって行き、空が淡い紫色に少しずつ染まって行く。