第10章 ・対極
「……我が王は、閣下と共に会議に出ておる。今日は遅くなると言っておられた。我等カディシュトゥも、今夜はここで過ごす事になってな……」
ナアマの瞳に、甘く艷やかな光が宿る。
ゾロは一瞬だけその視線を受け止め、すぐに背を向けた。
「……そろそろサマエルが戻って来る頃なんじゃねえか?……誰かに見られたら、面倒だろ……」
その言葉に、ナアマはほんの少しだけ、寂しげに笑った。
「……優しいのだな、そなたは」
「……そんな事はねえよ。ただ……裏切りは、嫌いなだけだ」
その言葉を聞いたナアマは、ふっと微笑み、軽く髪を掻き上げる。
ふわりとした色香が、ゾロの体に纏わり付く様に漂う。
その甘い色を掻き消す様に、男の低い声が、廊下に静かに響いた。
「勘違いするなよ、ナアマ……おれは『アポフィス』じゃねえ……『ロロノア・ゾロ』だ。悪りぃが、お前を抱く気は、更々ねえ……」
ゾロは突き刺す様に、言葉を発した。
ナアマは俯き、呟く様に言う。
「……判っておる……やはり、強い男だな……」
「……おれは、もう行くぞ」
ゾロは背を向けたまま、そう言い捨てる。
しかし、ナアマは小さく微笑み、そして懇願する様に彼に言った。
「……何時か、そなたを想う女に出会ったなら、その女を……愛してくれぬか……?」
言葉を継いだ彼女の唇が、微かに震える。
それは願いであり、祈りでもあった。
ゾロは思わず振り返り、彼女の顔に視線を遣った。
彼女の目が、微かに潤んでいる。
「……何言ってんだよ。おれは、女に興味はねえ……」
ゾロは少し照れ臭そうに、ぶっきらぼうに答えた。
だが、ナアマはその表情を見て、穏やかに微笑む。
彼女は一歩、彼に近付いた。
その柔らかな匂いが、ゾロの頬を掠める。
「……愛する事も、また強さであるぞ……」
ナアマの声が、廊下に静かに響く。
その言葉に、未練や誘惑の色はない。
ゾロは何も言わず、ただその瞳を暫く見詰める。
そして、何かを押し殺す様に、視線を落とした。
その眉間に、深い皺を刻みながら。
「……難しい事を……言うんじゃねえよ……」
「……今は判らなくても、何れ判る。お前自身、気付いていないが……お前は愛に、一途な男であるぞ……」