第9章 ・宿命
「……死皇帝ロロノア・ゾロ。汝に、もう一つ権利を与える」
ゾロは微動だにせず、その言葉を待つ。
その目は、殺意に満ちていた。
「それは……『生殺与奪』の権利。嘗ての死皇帝アポフィスのみが、生まれながらにして有していた権利だ。それは汝が口にした、地獄の王……閻魔大王の特権を遥かに超える権利だ。汝が生かす命は救われ、見限った命は滅ぶ。汝の意思一つで魂の運命が定まる。覚悟なき者に、この権利は持てぬ……汝、これを、受けるか……?」
その問いにゾロは一瞬目を閉じ、一拍置いて、口を開いた。
「我が王……大魔王ルシファーよ」
目を見開き、声は低く強く、大広間に響いた。
「影の星の奪還、虚の玉座の破壊、敵の抹殺……そして、生殺与奪の権利。その命……確かに、このロロノア・ゾロが受けた!!!」
右の瞳が、更に鋭い闇の光を放ち、ゾロの覇気と魔力が一瞬膨れ上がった。
大広間を照らす蝋燭の炎が一瞬立ち消え、その場にいた者達は、息が出来ない程の衝撃を受ける。
「……おれとアポフィスの故郷、影の星……青い星を取り戻し、虚の玉座を断ち斬り、この手で……全てを終わらせる……!!!」
その言葉に呼応する様に、魔王族達の魂が震え、城全体が揺れんばかりの、大歓声が起こった。
目の前で仁王立ちするゾロの姿に、大魔王は笑みを浮かべる。
ゾロの脳裏に、あの時に告げられた言葉が蘇る。
『……やがて汝は、生けるままにして呪いを背負い、数多の命と魂を消滅させ、血の海と屍の山を築くであろう……』
アポフィスの言葉。
胸の奥で、何度も何度も繰り返す。
(……上等だ。おれは元より、呪われた存在。血に塗れた道を歩いてここ迄生きて来た……おれはこれからも、この手で生を斬り、死を背負って進む。毒を食らわば皿迄だ……徹底的に、やってやろうじゃねえか……!!!)
ゾロは、不意に笑みを浮かべた。
それは男が、覚悟を決めた時にだけ見せる微笑みだった。
生殺与奪……それは死皇帝アポフィスが、生まれながらにして宇宙より与えられた特権。
宇宙の事象となり、その理を知った大魔王自身さえも、自ら得る事はなかった。
それが、若き魔王……死皇帝ゾロに与えられたのだ。
彼はその意味を、その胸と肝に、しかと受け止めた。
彼の決意の微笑みを目にしたルシファーは、目を閉じ、謝意を述べる。