第9章 ・宿命
「……本当カ?本当ニ、スグ帰ルノカ……?」
「ああ、もう、何百年も待たせたりはしねえからよ。だからもう、泣くな」
「……ソ、ソウナノカ……ナラ、オレ様、待ッテル!!必ズ帰ッテ来イヨ!!」
セトはその大きな目を、キラキラと輝かせ、はしゃぐ様に言った。
ゾロは苦笑しながら、その視線を真っ直ぐに受け止める。
そんなセトの様子を見ていた黄龍が深く息を吐き、彼の代わりに頭を下げた。
「やれやれ……セトよ、余計に死皇帝を困らせるな。我が君、無礼をお許し下されい」
「いや、いいさ。お前が謝る事じゃねえし。それより……」
ゾロはセトに向き直ると、腕を組み、小首を傾げながら訊ねた。
「……お前よ、アポフィスを乗せてたって、本当なのか?」
「ソウダ、オレ様、アポフィス乗セテタ!!オレ様、ズットズット昔ニ怪我シタケド……アポフィスに助ケラレテ家来ニナッタ!!戦ウ時モ、出掛ケル時モ、何時モ、アポフィスヲ背中ニ乗セテタ……ズットズット、一緒ダッタ……」
セトの声が、また震え始めた。
ゾロは頭を掻きながら、苦笑する。
「……ったく、泣き虫な奴だなあ……いいか、おれが帰ったら、お前の背中に乗せて貰うからよ。だから、もう泣くんじゃねえ」
まるで弟を慰める兄の様である。
ゾロの胸に、ほんの僅かに温かい痛みが走った。
彼は、自分がこの場所に帰る理由を、また一つ増やしたのだ。
「ホントカ!!オレ様、嬉シイ!信ジル!!約束!!!」
「おう、約束だ。お前も死皇部隊の一員なんだろが……もっと強くなれよ」
「……ソウダ!!オレ様、副隊長ニナッタンダ!!ダカラ、モウ泣カナイ!!!」
「え……?あ、はあ!?お前、副隊長なのかよ!!」
ゾロは、開いた口が塞がらなかった。
泣き虫の巨竜が副隊長……彼の胸に、一抹の不安が過ぎる。
「……おれの部隊、大丈夫なのか……」
「心配めされるな。隊長は黄龍殿だ。セトは純粋で従順故、副に据えられたのじゃ。こう見えても、此奴の戦闘能力は、なかなかに高いのじゃよ」
心配する彼に、蝿王が胸を張ってそう答える。
大魔王の右腕がそう言うのだ、間違いないのは確かである。
ゾロは少し安心して、セトに向き直る。
「へえー……そうだったのか、なるほどな……なら安心だ。おいセト、二番手も大変だぞ。しっかりやれよ」