第9章 ・宿命
「二代目死皇帝にして、魔王ロロノア・ゾロよ……汝は我等の新しき同胞にして、帰還した仲魔である。ここにその証……『死刀のタリスマン』を、汝に返還する!!!」
大魔王はゾロの右手を取ると、その手にタリスマンを握らせた。
その瞬間、軍勢の間から雷鳴の様な歓声が上がった。
ルシファーはゾロの手を握り締めながら、静かに口を開く。
「……ゾロ、これは嘗ての死皇帝アポフィスが常に身に付けていたものだ……これからは、お前が身に付けるがいい。我が友よ……本当に良く、戻って来てくれた……」
「……当たり前だ。魂としてここに来た時から、お前はおれを世話してくれた……その恩義じゃねえが、お前と約束したからな……必ず戻るってよ」
ゾロはそう言いつつ、静かな微笑みをルシファーに向けた。
大魔王は満足そうに大きく頷くと、今度は死皇部隊に視線を移した。
「ゾロ、彼等に一言……お前の言葉で、挨拶をするといいよ」
「……ああ……」
ゾロは大きく、ふうっ、と一つ溜息を吐くと、眼下の部隊に視線を落とす。
すると声を張り上げずとも、軍勢の歓声が一瞬にして消え、軍旗のはためきも静まり返った。
今この瞬間、自分独りに視線が注がれている事は、彼自身にはっきりと判った。
胸の奥で心臓が、ドクン、と跳ね上がる。
そして、開口一番。
「おれは、ロロノア・ゾロだ。人間として生まれ、大剣豪を目指す剣士として今迄生きて来た。強くなる為に鍛錬を続け、自分の弱さを知り、何度も立ち上がって来た」
ゾロの声は、まるで鋭い一閃の刃の様に、しかし、静かに広場に響いた。
「これからおれは、死皇帝として、お前等の先頭に立つ……だがおれは、今迄もこれからも、海賊として、剣士として大剣豪を目指す、独りの男だ……」
軍勢の誰もが息を飲み、彼の言葉に、黙して耳を傾けている。
ゾロの言葉は続く。
「前の死皇帝がどんな奴だったか……おれは知ってる。強い意志と力を持ち、最後の最期迄、勇敢に戦ったお前等の王……おれは、そいつにはなれねえし、おれはおれでしかねえ……それでもお前等は、おれを死皇帝として、おれを支えてくれるのか?」
その瞬間、バルコニー下の軍勢が、一斉に拳を掲げた。