第9章 ・宿命
蛇神隊二万二千、龍神隊二万二千、魔獣隊、同じく二万二千の軍勢で構成されている、嘗ての死皇帝が信頼し誇っていた百戦錬磨の精鋭達。
そんな彼等の熱気が、歓声と共にゾロに否応なしに伝わって行く。
大広間の静けさとは打って変わって、彼等の熱と力の渦が高く広いバルコニーを包み込む。
ルシファーはゾロの隣に立つと、右手を顔程の高さに迄上げた。
その合図一つで、眼下の軍勢は一斉に直立不動の姿勢になり、静まり返った。
空気が張り詰め、風に揺れる軍旗の布音だけが、静かに聞こえるだけである。
「魔神軍は死皇部隊……皆、良く集まってくれた。私や全ての仲魔達、そして、皆が永きに渡り待ち望んでいた者が、遂にこの真魔界に帰還した……諸君、死皇部隊の主君である死皇帝が帰還した事を、今ここに告げよう!!!」
大魔王は、今迄に出した事がない程の大声で、叫ぶ様に宣言した。
その声に呼応する様に、全ての兵が大声で、死皇帝の帰還を喜んだ。
「死皇帝!!!死皇帝!!!」
六万余りの兵達が、口々に叫び続けている。
流石のゾロも、その大声援に圧倒され、身動き一つ出来ない。
永い間待ち焦がれていた彼等の喜びが、爆発しているのである。
喜び、泣いている彼等の感情を読み取ったゾロは、声一つ出す事さえ出来なかった。
そんな彼に、ルシファーが静かに声を掛ける。
「ゾロ、大丈夫か?」
「あ……ああ……何とか、な」
返答をした彼の声は、震えていた。
恐怖やプレッシャーからの震えではない。
彼等の感情に触れたゾロは、泣いていたのだ。
涙は流れてはいないが、確かに泣いていた。
彼の魂そのものが、泣いていたのである。
そして、やっと、言葉を発した。
「……なあ、ルシファー……おれはあくまでも『ロロノア・ゾロ』だ……アポフィスじゃねえ……それでも、こいつ等は、おれを死皇帝と、認めてくれるのか……?」
「勿論さ……君は、もう皆に、認められているんだから」
ルシファーはそう言うと、また右手を上げた。
一瞬にして、辺りが静まり返る。
彼は一呼吸置いてから、ゾロに向き直り、胸のポケットから掌に収まる程の大きさのタリスマンを取り出し、それを高々と天に掲げた。
それは黒曜石の様に黒く美しい光を放つ、非常に硬い黒隕鉄で出来ていた。
そして再び、声高らかに告げる。