第9章 ・宿命
バルコニーへと続く重厚な扉が静かに開かれ、広く長い廊下が現れた。
廊下の壁には窓が一定の感覚を置いて並び、外の景色が断片的に見える。
そこから入り込む柔らかな風が、大広間に流れて行った。
真魔界の程良く暖かい空気が、ゾロの鼻先を掠める。
(……ああ、懐かしいな……)
柔らかな風に運ばれて来る、爽やかなフィトンチッドの香りが、彼の魂を揺さぶった。
ルシファーが軽く右手を上げると、二十名の護衛隊が隊長を先頭に、前衛十名、後衛十名に分かれた。
前衛隊十名が列をなして、バルコニーへと続く廊下に並ぶ。
その後ろを、ルシファーを筆頭に、ゾロ、そして仲魔達、後衛部隊が続いて整列した。
皆が整列した事を確認した先頭のクー・フーリンが、大音声で指示を出す。
「魔神軍魔王護衛隊、前進!!!」
彼の声に護衛隊が足並み揃えて前進する。
彼等に続き、大魔王が歩を進める ゾロは、彼に続き歩き出す。
バルコニーや窓から流れて来る懐かしい風が、頬を掠める。
彼は、魔界の匂いを胸一杯、吸い込んだ。
長い廊下を渡り切り、前衛の護衛隊が左右二手に分かれて道を開ける。
ゾロがバルコニーへ出たその瞬間。
眼前に広がる景色に、彼は目を見張った。
薄紫色をした、美しい空。
そこに浮かぶ、真っ白な雲。
朝焼けの様に柔らかな光を放つ太陽。
黒に近い深緑の山々や木々。
沢山の可憐な花々。
そして、シンジュク御苑に佇んでいる、あの飴色の巨木よりも大きな木。
ゾロは自分の魂が、大きく揺さぶられている事に気付いた。
(……やっぱり、ここだ……おれが『魂の片割れ』に呼ばれた場所……『合一魂』になった場所……ルシファーと……みんなと会った場所……確かに、ここだ……!!!)
体の震えが止まらないゾロの耳に、大魔王の声が届く。
「……ゾロ……もっと前に進め……そして見給え。お前を待っていた者達を……永きに渡り、お前の帰りを待っていた者達を」
彼の言葉に、ゾロは歩を進め、庭の様に広いバルコニーの縁に立った。
途端、地を揺るがす程の、大歓声が沸き起こった。
眼下に広がる光景に、ゾロは思わず息を飲む。
魔神軍の兵が整列し、黒い波の様に、大魔王城の広場を覆い尽くしていたのだ。
その数、六万六千六百。