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魔王之死刀

第8章 ・記憶


 驚くバエルに、ゾロは淡々と答える。

「ああ……普通に生きてても、それなりの弊害はある。おれは戦い続け、剣に生きる男だ……命取りになる事は避けなきゃならねえ。それが、おれの生き方だ」

 ゾロはそこで一息吐くと、目の前に置かれているグラスに手を伸ばした。
 グラスに注がれている水を口に含み喉を潤すと、またバエルに向き直る。
 
「……まあ、だがそのお陰で、気配や匂いで更に色々判る様になった。敵の位置、酒の匂い、血の臭い……この傷のお陰で、おれは更に強くなる事が出来た。右目はしっかり見えるし、手術しなくても、全く支障はねえからな」

 そう言って、目を伏せて微笑むゾロに、バエルは心底感心し、感嘆する。

「むう……どうやらお主は、私が思っていた以上に、強い心の持ち主の様だな。しかし、そんなお主にその傷を負わせたのは……相手はニンゲンだったのだろう?」

「……相手は生身の人間だった……と思うぜ。一年位前だったか……相手の攻撃を避け損なったんだ……そんで、失明した。おれが弱かったから……ただ、それだけの事だ」

 ゾロはそこ迄言うと、笑みを浮かべて、軽く息を吐いた。
 バエルが何か言い掛ける前に、今度はゾロから彼に話を切り出す。

「……悪りぃな、バエルって言ったか。あんたの思念が、おれに伝わって来た。相手は誰だったのか……知りてえか。いい機会だ……教えてやるよ」

「お、おお……何と……私は伝える意志は、全くなかったのだが……」

 驚くバエルに、ゾロは軽く頭を横に振る。

「いや……おれも読もうとは思ってなかったんだけどよ……『闇』に、お前の思念が乗って来たんだ。闇がおれに教えてくれる……そんな感覚だな」

 静まり返る大広間に、ゾロのドスの訊いた声が低く響く。
 そこにいる者達は皆、固唾を飲み、ゾロの話に耳を傾ける。
 彼は、一年前に自分の身に起こった事を、淡々と話し始めた。
 
「……おれの左目に傷を負わせた男……相手は『鷹の目のミホーク』の『命を狙った奴』だ。名前も何処のどいつかも知らねえが、剣の腕はバカみてえに立つ奴だった……鷹の目は、おれの剣の師匠であり、おれが目標としている大剣豪なんだが……そいつとおれとの修業中、奴は一瞬の隙を突いて来た……」

 彼の低い声は、辺りに静かに響き続ける。
 壁に掛かっている蝋燭の炎が、微かに揺れた。
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