第8章 ・記憶
「何と……この男は、魂だった頃の記憶を、失っていなかったのか……」
全て消えていたと思われていた、死皇帝アポフィスとゾロの、魂としての記憶。
その断片は僅かではあるが、まだ残っていたのだ。
ルシファーは、円卓に突っ伏したままのゾロの右肩を、ポン、と一つ叩いた。
荒かったゾロの呼吸が、徐々に整い、正常な呼吸に戻って行く。
突っ伏していたゾロは、ゆっくりと起き上がると、大きな溜息を一つ吐き、隣に立っているルシファーを見上げ、礼を言う。
「……悪りぃ……助かった……」
一部始終を見守っていた仲魔達は、ほっと胸を撫で下ろした。
だが、ゾロは何故か冴えない顔をしている。
彼の心を見通した大魔王が口を開く。
「……始皇帝の力……元々、君の力ではないから、君は納得していないんだろう?」
「ああ……そう言う事だ……始皇帝に呼ばれなきゃ、おれは弱い魂のままだった……おれは、自分の力で、強くなりたかった……」
そう言って視線を落とすゾロに、ルシファーは静かに、諭す様に言葉を発した。
「ゾロ……君が力を得たいと強く願ったからこそ、始皇帝は君を呼び寄せたんだよ」
低く、しかし穏やかなルシファーの声は、大広間のざわめきを静めて行った。
だがゾロは、相変わらず視線を落とし、拳を膝の上で固く握りしめている。
「そして……その力を手にする事を選んだのは、他ならぬ君自身だ。君の『意思の力』……その力を求める強い『思念の力』で、君は力を手にしたんだ」
ルシファーの言葉に、ゾロは少しずつ落ち着きを取り戻して行く。
そしてゆっくりと顔を上げ、彼を真っ直ぐに見据えた。
ルシファーは、その視線から目を離さず、ゾロの瞳を見詰める。
「だからこそ、その力は紛れもなく、君自身が引き寄せ、得たもの……君は魂の頃より強い自我を持ち、強い意思、思念の力を備えているんだ……その事を、どうか忘れないで欲しい」
大広間の沈黙は続く。
ただルシファーの声だけが、静かにゾロの胸に、響いた。
「意思の力……か……そうか……そうだな……判った……ルシファー、ありがとな」
ゾロはそこでやっと、笑みを見せる事が出来た。
意志……思念は強ければ強い程、良くも悪くも、様々な事象を引き寄せる。
彼は、ルシファーの言葉を思い出す。