第8章 ・記憶
……ルシファーの話は、そこで終わった。
円卓にいる者達、そしてその場にいる護衛の者達は、また涙を流している。
そんな彼等の様子を見た大魔王は、再び静かに語り出した。
「……我が友、死皇帝アポフィスの魂を賭けた一撃がなければ、恐らく奴には勝てなかった。死皇帝こそ我等の救世主と言っても過言ではない……ここにいるロロノア・ゾロこそ、その死皇帝アポフィスの魂……『力』を受け継いだ者である……」
ルシファーの声が、大広間に響く。
その深い声色には、永い時を背負った者だけが持つ、静かな重みがあった。
ゾロは、視線を落とした。
言葉の端々から、大魔王らしからぬ『痛み』を感じた。
友を失った痛みなのか。
彼は静かに目を開け、何か言いたげな視線を彼に向ける。
しかし先に口を開いたのはゾロではなく、大魔王であった。
「ゾロ、先程も言ったが……君は肉体を持つ生命体として生まれる事の出来ない存在であった。母体の胎内の中で死に、若しくは死産する……そうやって死ぬ運命を繰り返す、定められし宿命を背負った『呪われた魂』であった」
ゾロは、黙して大魔王の話に耳を傾けている。
彼の言葉は、大広間に静かに響き続ける。
「……しかし、君は渇望した。『最強の存在になりたい』と。君の願いは死皇帝の魂に届き、そして、君の魂はこの魔界へと誘われた。力を欲した君は呼ばれ、選ばれたんだよ……呪いの力をも持つ、死皇帝……アポフィスにね」
ゾロは暫くの間、彼の顔を見詰める事しか出来なかった。
呪い……この言葉に反応したのは、偶然ではなかったのだ。
(呪われた魂だったおれを、呪いの力を操るアポフィスが、呼んだ……おれ達は、引き合う宿命だった、って言うのか……)
大広間が静寂に包まれる。
だがその数秒後、ゾロは自分の心……いや、魂の奥底から、闇が一気に湧き上がる感覚に襲われた。
その闇は、彼の脳……海馬に入り込む。
瞬間、ゾロの目の前が暗闇に覆われた。
その闇こそ、彼の『魂の記憶』……『呪われし魂』と『力の魂』の記憶であった。
彼は、はっきりと思い出した。
力となった死皇帝の魂と契約……いや、約束を交わし、合一魂となった事を……。