第7章 ・死皇帝
……原初の闇……死皇帝。
それはまだ『創造主』と名乗る者が現れていなかった時代の話。
彼は、百何十億年と言う遥かな昔より存在した、数多の神々の中の一柱であった。
太古の時代より、彼は死と闇を司る神であり、宇宙が生み出した事象を司る一柱であった。
やがて、後に生まれたヒトによって忌み嫌われ、畏れられ『悪神』と呼ばれた。
だが彼は、それを否としなかった。
ヒトは、死と闇を恐れる存在である事を、最も良く知っていたからである。
光と闇……それは元より一つ。
宇宙の理により生まれた、不可分の事象。
どちらが欠けても世界は成り立たない。
その真理を理解し、静かに受け入れていたのが、彼……死皇帝であった。
……彼は『影の星』に生まれ、光届かぬ天界の奥深く闇の地に住まう神であった。
その闇に住む神を『死皇帝』と名付けたのは、『明け明星』と呼ばれたルシファーである。
光と闇。
相対する二つの力を持ちながらも、互いを理解し合い、尊び合った。
彼等は、掛け替えのない親友であった。
神々はヒトに信仰され、また畏れられながら、天界で穏やかな時を過ごしていた。
……あの日『創造主』を名乗る者が現れる迄は。
……その者は神々の隙を突き、至高天の玉座を奪った。
彼は、自らを創造主、と称し、他の神々の知恵を奪い取り、一本の大樹に封じた。
以後、神々は『悪魔』と呼ばれる存在へと貶められた。
創造主の目的はただ一つ。
『ヒトの自由を奪い、己のみを信仰させる事』
その者は信仰を独占し、自らを崇める者にのみ恩恵を与えた。
他の神々を『悪魔』又は『異教の神』と呼び、信仰を禁じ、天使達をも支配下に置こうとした。
それに抗ったのが、大天使ルシファーと死皇帝である。
二柱は誓い合った。
この存在を打ち倒し、自由を取り戻す為に。
……まずルシファーは、ヒトに、大樹の『知恵の実』を与えた。
それにより、ヒトは『ニンゲン』となり、自らの意思で選び考える力を得た。
創造主への盲信は薄れ、反逆する者が現れた。
やがて、天界は創造主の勢力と半勢力に二分され、激しい戦いが始まった。
反逆者達は創造主を皮肉り『四文字の神』と呼んだ。
だが、その戦いは次第に劣勢となり、遂に彼等は、地の底へと堕とされる事となった。
その直前、死皇帝はルシファーに言った。