第7章 ・死皇帝
湖で体を洗い、スーツに袖を通す迄、ロバの魔神はずっとそこに居たのだ。
キャーキャーと奇声を上げる彼に、ベリアルは何度か注意したのだが。
流石の大魔王も、そんなアドラメレクにはお手上げの状態だった。
ベリアルは呆れつつ、口を開く。
「奴は、我々上級魔神の衣装係である前に、ああ見えても真魔界の宰相……上院議長も務めている凄腕の魔神なんじゃ。ただ、お前も察しの通り、男好きでな……お前の様な筋肉ガッチリな男前が特にのう……」
「……結局、オカ魔野郎なんじゃねえかよ!!しかもこのスーツ、ちょっと派手過ぎるしよお……」
ゾロは溜息を吐き右手で頭を抱えつつ、ルシファー、ベリアルと共に大広間へと歩を進める。
大広間の大きな扉は開かれており、その扉の左右の脇には槍を構えた二体の兵士が立っていた。
「モムノフ、何時も警備ご苦労……ありがとう」
ルシファーが謝意を表すと『モムノフ』は、一瞬たじろいだ。
彼等は代々、太古の昔より、城や街の守護を任されている一族なのだ。
大魔王から声を掛けられた彼等は恐縮するが、しかし、任務を遂行せんとばかりに、はっきりとした口調で忠誠を示す。
「閣下のお言葉、恐れ多き限り!!この槍に賭け、ネズミ一匹も通させは致しません!!!」
「はっ!! この命尽きる迄、全力でこの城をお守り致します!!!」
彼等の忠誠心溢れる返答に、大魔王は笑顔で答える。
彼等は、更に背筋を伸ばした。
ゾロにはそれが、少し大袈裟に聞こえたのかも知れない。
「あいつ等……真面目過ぎて、ちょっと面白ェなあ……」
ゾロは小声で呟きつつ、その顔には笑みが溢れていた。
大魔王城は、元々ルシファーが住んでいた城で、魔王城の何倍も大きい建造物である。
部屋は大小何百とあり、そこに住んでいる魔王族も少なくない。
勿論、大広間もダアトにある魔王城のそれより何倍も広く、天井も高い。
天井や壁は繊細で美しい彫刻で装飾されており、それらは金銀を始め数種類の宝石で彩られていた。
壁に掛けられている燭台も、美しい金細工で作られている。
城全体が芸術品と言っても過言ではない。
大魔王城は、古に建てられた城とは思えない程の高度な建築技術を駆使し、築かれた城なのだ。
ゾロは思わず息を飲み、部屋全体を見渡して行く。
が、彼は、小首を傾げた。