第1章 没落した名家
リリアンヌはそのまま立ち去ろうとした。
するとバリエ男爵が小声で言った。
「お母上のお薬でお困りなのでしょう?」
バリエ男爵は微笑みを崩さず、リリアンヌに近寄った。
「なぜあなたのような下級貴族が私たちのことを…」
するとバリエ男爵はくすりと笑って答えた。
「今や社交界ではアランブール公爵家の話ばかりですよ。先代の散財により没落したと…。それにその格好ではとても公爵家の令嬢とは思えませんね」
リリアンヌはそれを聞き、バリエ男爵の頬を叩いた。
「身分を弁えなさい、バリエ男爵。私は公爵家の令嬢です、没落しようと身分は変わりありません」
リリアンヌが強く言うとバリエ男爵は赤くなった頬を押さえ、リリアンヌに更に近寄った。
「ふふ、まだ高貴な公爵令嬢のおつもりですか?貴女のお母上のことをよく考えてください」
バリエ男爵の一言で、リリアンヌはハッとした。
もう薬が殆ど残っていないのだ。
するとバリエ男爵は甘い声で囁いた。
「アランブール公爵令嬢、良い話があります。私が代わりに借金を全て肩代わりし、アランブール公爵家も元通り復興させましょう」
バリエ男爵との距離が更に縮まり、バリエ男爵はリリアンヌの耳元でそっと囁いた。