第1章 没落した名家
アランブール公爵夫人は元々心臓に疾患を持っており、常にベッドで横になっているのだ。
「お母様、私がお部屋を片付けますからお休みになってください。お医者様からのお薬もお持ちします」
しかし薬を買う余裕などなく、薬は残っているもので終わりだ。
リリアンヌは慣れない動作で埃まみれの重い椅子を引っ張り、ハンカチで椅子を拭いた。
「ここでお待ちください。まだ馬車に荷物が置いてありますから」
リリアンヌはそう言って外に出るが、先程までいたはずの馬車がいなくなっていた。
恐らく御者も、取り立て屋の一味だったのだろう。
「そんな…」
リリアンヌは思わずその場にしゃがみ込んだ。
するとリリアンヌの目の前に、豪華な馬車が止まった。
そのまま扉が開き、中から一人の男性が現れる。
「どうやらお困りのようですね、アランブール公爵令嬢」
彼は元平民の新興貴族で有名なダミアン・フォン・バリエ男爵だ。
商人でもあるバリエ男爵は宝飾品を取り扱っていることでも有名だ。
リリアンヌは何を考えているのか分からないバリエ男爵の表情と目つきに怯えた。
とても優しそうに見えるが、必ず裏があるとリリアンヌは思った。
「いいえ、何でもございません。お見苦しいところを申し訳ございませんでした」