第1章 没落した名家
それから一週間が経ち、アランブール公爵一家は粗末な馬車に乗って郊外の屋敷へと向かった。
屋敷は荒れ果てており夜明け前の薄暗さがより一層、不気味さを誇張している。
元はとある貴族の邸宅だったが、現在は持ち主が不明の屋敷だ。
「ここが私たちの新しい家なのですね。悪くありませんね」
リリアンヌはにこりと微笑み、荒れ果てた屋敷の門を潜った。
庭は雑草だらけで、屋敷の壁にはツタが生えている。
ツタには虫が集まり、思わずリリアンヌは目を背けたが、前を見て歩き出した。
「お父様、お母様。今屋敷の鍵を開けますね」
リリアンヌは錆びている鍵で屋敷の扉を開けた。
屋敷の中は外観よりも不気味で、辺りには壊れた家具が散らばっており、窓がないため陽の光が全く入らない。
しかし、リリアンヌは決して笑顔を崩さなかった。
「家具があるのは助かります。家があるだけ、幸せです」
気丈に振る舞うリリアンヌを見て、アランブール公爵夫妻は心配そうな顔をした。
そしてリリアンヌの母親であるマリア・ド・アランブール公爵夫人は優しく言った。
「無理をしなくていいのよ、リリアンヌ。あなたのせいではないのだから」
しかしリリアンヌは微笑む。
「お母様こそ無理をなさらないでください。またお身体の具合が悪くなっては大変です。ゆっくり静養なさってください」