第7章 君に負けたくない
三つ巴の競り合いは、もう言葉じゃ足りないほどに熱くて。
呼吸なんて、とっくに合っていた。
睨み合い、張り合い、競い合って――なのにどこか、同じ鼓動で走ってる感覚。
でも、その時だった。
「ドォォォンッ――!!」
轟音。大地が揺れる。
次の瞬間、爆風と煙が辺り一面を包んだ。
視界が一瞬、真っ白になる――その向こう。
一人の影が、まるで風を切り裂くように、煙の中から飛び出してきた。
(――緑谷くん)
爆風をまとって、彼は空を跳ぶ。
私たちの真上を、美しく、力強く、まっすぐに。
その姿に、一瞬、息が止まった。
私も、轟くんも、爆豪くんも――
誰もが言葉をなくして、ただ彼の姿を目で追っていた。
……けど、ほんの一瞬だった。
「まだだ……負けられねぇ」
爆豪の声が低く響く。
その眼が鋭く光り、次の瞬間にはもう爆破で前へ。
轟くんも、感情を顔に出さないまま、けれど確かに瞳の奥が燃えていた。
足元に氷を走らせて、加速していく。
私も――自然と、足が動いていた。
(負けたくない)
胸の奥が熱い。
全身に力を込めて、跳ぶ。
轟の作った氷道に沿って、爆豪の起こした爆風をかすめて。
タイミングは寸分違わず、誰より速く、誰より真っ直ぐに。
視界の先には、緑谷くん。
着地と同時に再び跳ねて、爆風で飛ぶ。
(追いつく……!)
息が苦しい。
でも、呼吸なんて忘れるくらい、心臓が叫んでる。
――負けたくない。絶対に。
ゴールが近づく。
緑谷くんと私、並んで駆ける。
――あと、少し。
歓声が、遠くから聞こえる。
その声に包まれるように、ゴールテープが切られた。
先に届いたのは、緑谷くんだった。
私のすぐ、ほんの少し前。
悔しい。
でも、それ以上に、心の奥に残ったものがある。
(これが――“本気”の勝負)
震えるくらいの手応えと、負けたという実感と、
それでも私が今ここに立っていた意味。
きっと、全部が“正しかった”。
私は、ゆっくりと息を吐いた。
まだ、これからだ。